90監視視点とお皿の絵付けでぽろり
「こ、コレス様」
この国のSランクではない上にこの国でいう、二つの迷惑をすでにかけている。
負い目を感じているときに、今の対応は不味いのではないかと見張りの間でも話は浸透していた。
カタカタと震える見張りを王の指令書で受け取った男は、どうなるのだろうかと不安で仕方ない。
「な、何でしょうか」
「言わなくてもわかるくせに、言わせるつもりか?傲慢だな」
「!」
びくりと肩を揺らす王家の犬。
「すみません。これも王家からの命令なのです」
「謝れば人をじろじろと見て、紙に書いて報告をあげる仕事なんて楽しいようで、なによりじゃねえか」
皮肉を混ぜてそっちを見続けるコレスに見張りは気まずい気持ちになり、俯く。
いつもバレないのでこんなことはない。
報告内容の本人たちは何も知らず自分たちの存在など思ってもみないという顔をしている。
などと思う、見張りの心を見透かすのはコレスだ。
「バレないから、仕事だからを言い訳にして好きにやれるのは権力があるからだ。おれにそれが通じると思ってんのか」
怒っている、激怒している男の言葉にますます顔をあげられない。
「権力が通じないお前らのやり方は世間じゃ犯罪行為というんだ。思い出したか」
くつりと笑う声が聞こえてぶるりと震え出す者。
怖がるのなら初めからやるんじゃないと呆れる男。
しかし、追求の手を緩めない。
「王にこれを渡せ。次こそなんて存在しない。それだけ言っておく。さっさとそれを持って去れ。公式の変質者」
「なっ!!」
王家の正式な仕事を馬鹿にされて言い返そうと相手を見上げる。
「ひぃいいい!!」
殺意を込めた顔で、魔法を目の前で展開させていた。
言い返していたら顔を焼かれていただろうことは、かろうじてわかる。
エレラ曰く公認のストーカーたちがあちこちから撤収すると、コレスは惜しいなと思った。
これで退かねば、威力を加えた雷の魔法を打ち込めたのにと。
奴らの気配がなくなるのを待つ。
手紙を読んだ上で、配下や見張りをおけば今度こそ最恐生物の前に動けない状態にして放り込む。
エレラはいつも、いい仕置きの方法を考えつく。
コレスは別に王家がトカゲドリを禁止にしても関係ないと思える。
なぜなら王家にトカゲドリをどうこうする力なんて、ないと知っているから。
放っておいても構わない。
コレスはいなくなった男たちの気配を遠くから感知し、愛しい妻の元へ舞い戻り隣に今日も座った。
*
王にトカゲドリの件を知られて数日経過した。
見張りは完全に引き上げられたらしい。
本気でトカゲドリの前に放られると知った者たちはやめておいた方がいいと必死に王を説得させていったとコレスが報告してくれる。
どうやら王城に忍び込み、様子を見てきたらしい。
それとコレスはお皿の製作を把握したと自称し色々作り出した。
最近の自身のブーム的なものがお皿作りになりつつあるみたい。
絵付けというものを教えてみると、ぐんぐんスポンジのように知識を吸収した男は、絵付けをやっていく。
絵なんてエレラにもよくわからない。
「楽しい?」
「ああ。繊細な作業だがやりがいがある」
いままで全くかいてこない人生だったし。
ノートの片隅に棒人間を書いてパラパラと高速でめくり、まんがにしたのが最後だ。
あれは今思い出しても楽しかった行為。
「そういえば、まだなのかな……土地の永久所有の話」
「すぐに認可は降りる。役人が届けにでもくるだろ。王の息がかかったやつが」
「ふんふん。トカゲドリが本命の話に持って行こうとするってことか。めんどくさ」
悪いが、トカゲドリについては聞いても動かないので、温泉関連の話がエレラ的に関係の結びつきは重要。
彼らが足掻いたところで、なにもできることはない。
それに、エレラが例え説得してトカゲドリを手放させたとしても、元の場所に戻す気もないらしいし。
それならば、ここに置いておく方が遥かに安全。
彼らはそのことを知らないからエレラのわがままとでも思い込むかもしれない。
それでも構わないかなと思う。
ムッとしたら言い返すけれど、事実を知るのはなかなか難しい。
何か言っても、言い訳をしている女としてさらに悪女だと思われて、終わりに違いない。
「この皿に桜をかいてみた」
「わ……綺麗」
桜の花と、花が一枚離れて落ちる様子をえがかれていた。
「これ、くれるの?」
「そのために皿のある場所に通って皿を作ったんだから、当然だろ?受け取ってくれ」
「ありがとう」
桜の絵がかかれたお皿を両手で受け取る。
あまりに美しくて見惚れた。
ぼんやりしていると瞳が微かにぼやけて、涙がポロポロと出てくる。
泣いている意識なんてなかったから驚いた。
「泣いてるなー、私」
へらりと笑う。
人前でなくなんて酷く久しぶり。
「嬉しいんだったら、皿職人冥利につきる」
「うん。ありがとう」
「……抱きしめたい」
ホロホロと泣くエレラを慰めたいと近寄ってきた。
「ちょ、止まって止まって」
ぴたりと止まる夫は、不服そうにこちらを見てくる。
「はぁ、じゃあ。これで良い?」
抱きしめるのは、できたらひかえてほしいのでお礼として手のひらを前に出す。
コレスも同じく手を出して、軽く振る。
「これで」
「不満が少しある」
「我慢して」
なだめた。
エレラは今はジリジリとした哀愁を、感じ入らせてほしかった。
心が弱った隙に入り込もうとするコレスのやり方に、笑ってしまったけど。
おかしくておかしくて。
お皿を渡したと思ったら、感動して涙をこぼしたら、すかさず口説く。
いつもはぷりぷり怒るものだが、今日はすっきりした気持ちのままだった。




