86外にいた人達は恐怖の最恐生物を見てしまったので叫んでいる
カタログ本でもあったら、適当になにかしら指をさすのに。
「大体手に入るしな」
コレスが事実を言い終える。
王は悩む顔でふーむと目を閉じた。
「Sランクともなればそれもそうか」
大国でも手に入らないようなものでも、Sランクならば手に入れられる強さを持つ。
宝石でも、原石でも探せば買うより安く手に入る。
食べ物もそうだ。
未開の地で得られる、天上の果実を手に入れたSランクの話は有名。
「エレラはどうだ」
「コレスでも、ちょっと難しそうな。手に入れられないものがあるでしょ」
「おれに?」
「うん。土地の永久購入」
「そうだった」
夫は頷く。
Sランクだろうと王から無理矢理土地をぶん取るのはできても、穏便に終わらない。
なので、温泉の源泉と鉱石の土地を、エレラとコレスが生きている間だけでも、王家や貴族が絶対に奪い取れないようにしたい。
コレスはそうだ、と手をぽんと叩く。
エレラがよくやる仕草が移ったらしい。
「私達が購入した土地を、完全に譲渡して欲しいのですが」
「購入した土地。問題がなければ構わない。わかった、今回の慰謝料はそれにしよう」
王はホッとした。
「問題がなければ絶対に、だな?」
念押しするコレスが王を見る。
前回のやらかしを含め、なにがほしいと王が自発的に言ったのだから余計なことはしないだろうなという、裏の含みを持たせた。
「ああっ、それは勿論!約束しよう!」
王は今のうちにと何度も頷く。
「書面にしたら」
エレラがコレスにアドバイスし、コレスはパチンと指を鳴らして紙を出現させる。
「そうする。書いてもらう」
王は書面にするなどと思ってもいなかったので、緊張に一筆書いた。
同じく書いたコレスもにやりと笑い、満足そうにしていたのでこれでよかったのだと彼らは内心安堵していることだろう。
やり取りを終えて、エレラ達は外までお見送りする。
しかし、外に出た時に人数制限をして、あぶれた護衛たちが何故か青白い顔でぶるぶる、ぶるぶると止まらぬ振動で震えている。
「どうした」
たずねるがだれも話さない。
ひたすらダンマリ。
「おい、王の問いに答えるのだ」
近衛としてあり得ない態度に、家の中にいた方の護衛らが叱責する。
「あ」
エレラは、彼らのこの世の終わりを見た顔を見て。
彼らはもしや、音を漏らさない様にして、カバーをしておいたアレをわざわざ、外して見てしまったのかもしれないと予想した。
彼らが怯えるものは、コレス以外一つしかない。
「どうした?おい、おい」
「おい、聞いているのか?」
「早く答えるのだ」
「なにがあったのだ?答えよ!」
何度も何度も揺さぶる面々。
「と、と、と」
「と?」
青くなる唇を薄く開けた男が、掠れた声でなにかをいいかける。
「とり、とり」
「とり?鳥がどうした」
鳥などそこらへんにいるではないかと声をかける。
首を振る近衛。
「トカゲ、とか、トカゲ」
「トカゲも地面にいるではないか」
「ああ。なんなのだ?」
カチカチ、カチカチと歯を鳴らす音が空気に響く。
「とか、とり」
「はっきり言わんかっ!」
叱責をさらにしても、震える口はうまく言葉を言えないだけなのだ。
「トカゲドリがっっ!」
それを聞いた王の側にいた方の男たちは目を胡乱にして、ため息を吐いた。
彼らも今すぐ、逃走したくてたまらないのだな。
エレラは内心、とても不憫に思えて頑張って生きてと応援した。
「いました……」
「あっちに」
「ひ、ひぃ!?」
「今日は、今日はっ!欠勤します!」
「わ、私も!します!」
「私も!」
「すみません!」
「しゅみましぇええええんんんん!」
エリート達も裸足で逃げ出すトカゲドリ。
涙や汗やその他諸々を落としながら護衛らが数名いなくなる。
向こうに行ったのだ。
トカゲドリと真逆に。
そうなるよねえ、となる。
コレスはシレッと「賑やかだな、近衛は」と言う。
彼は素知らぬ顔で王達にまたなと言ってエレラの手を引く。
何が起きたのかとか、色々言わないんだ?
とは、思ったがエレラとて聞かれても言えることは、そうですトカゲドリです……というしかあるまい。
(いいんだ、それで)
他のことを言えることもない。
トカゲドリのことは特に、何か知っていることもないし。
扉を閉めてから五分程した後に「うっぎゃあああああ」と叫び声が聞こえた。