85王がうちに来てクッキーを食べドライフラワーをプレゼントしてくれる
コレスらは現在、王による謝罪を受けていた。
本人が来たら周りがうるさいので人数制限をして家の中に入れた。
「……で?」
エレラの夫は腕を組み、堂々たる姿で先を足す。
(凄い。さすがの私もここまで上から目線で人と接しない。相手に非がない場合)
今回は微妙なものだが、自国の貴族のせいで迷惑をかけられ、全ての貴族のトップが頭を下げてくるのは流れ的に想像できる。
傍に同じくいるエレラはクッキーが焼けたので立ち上がる。
しかし、動いたせいか王側の護衛が動こうとしてコレスの威圧を受けて激しく呻いた。
「カハッ!?」
「グッ!?」
「な、なんだ?」
王は王で、妖精の数に慄いていたのでエレラが動いたことすら気付いてなかった。
「おれの妻に……なにか?」
と惚気と自慢と殺意を込めて、何食わぬ顔でフンッと鼻を鳴らす。
「いや、いや、コレス殿。私達にあなたたちを害する意志はない。そうだろう」
と、護衛たちにたずねる王。
王の言葉に何度も首を振る男達。
殺気が強烈で声が出せないのだ。
そんなことよりも、報告の続きをせねばと王はコホンと咳払い。
立ち上がるエレラは、そのままクッキーを用意する。
「そういうわけで、男爵は爵位返上。そして、慰謝料を後に払うとのこと」
それで、と王はコレスへ箱を渡す。
「これは?」
「商人が珍しいから向上してきたドライフラワーと呼ばれる美しい花。どうだろうか」
クッキーを手に椅子に戻るエレラはポカンと惚ける。
(え?)
「これはいくらかかったんだ?もっと欲しくなった」
男は何も言わずに王へたずねると値段をいう。
「だれから買った」
値段を聞いたエレラは内心高い、と頭が熱くなる。
「へ、ああ。買いたいのだな。名前は……思い出せないので使者を送り報告書も共に届けよう」
転売を見事行った人に制裁を加える顔をしている。
「ああ。エレラは、こいつらにそのクッキーは勿体無いぞ。こいつらの命よりも価値がある」
「そうなの?」
「そこまで言われるクッキーなのか」
王は逆に興味を持ったらしい。
今の言い方はエレラもそう思うので、彼の失敗だ。
夫はシラッとした顔色でまぁまぁと言うエレラを見る。
「妖精達も手伝ってくれたんです」
彼女の発言に王の目も護衛の目も、これでもかと剥く。
「よ、妖精が手伝う、と?」
そんな事例はないと、王がつぶやく声にふふっとなる。
値段が高いという発言は、そっちの意味じゃないんだけどね。
トカゲドリの卵で作り、妖精が手を加えた。
そして、バラの形。
付加価値は無限大。
「なっ、見事な……菓子だ」
「クッキーです。どうぞ」
「こいつらには一枚で十分」
差し出したお皿から残り三枚を除き、手に持つ男。
それに文句を言わずに貰おうと言う王に、毒役はいらないのだろうかと首を傾げる。
「あの、毒味役的な、人は?」
「ん?ああ。必要ないよ、私には」
王は軽く笑う。
護衛も慌てていたり、なにか不服そうではないので本当に必要なさそうだ。
ぽり、と本当にちょっとかじるという仕草をした相手。
ちょっと食べて食べましたという、パフォーマンスで済まそうしている。
おためごかしで食べたフリだろう。
「な?一枚で十分だったろ」
コレスがぽつりと声をこちらに落とす。
それは味を知らないからだ。
「う、う」
王が震え出して叫ぶのに、時間はかからない。
「うまいっ!」
例の卵を使っているから美味しいし、異世界のレシピなので美味しいはず。
「は、な、なんだ、この菓子は」
「クッキーだ。どれだけ食いたくてもお前らには一人一枚だからな」
謝罪する分際で求めるなよと、釘を刺しておく男。
先程エレラに害をなしかけた気配が余程、許せなかったらしい。
王達は目を白黒させてクッキーを食べている。
クッキー自体初めてだろうし、蜜入りなので甘みもあるから、すぐにたべおえる。
残りは護衛用なので王の分ではない。
「このような菓子がこの世にあったのか」
しかし、目だけで人のものを取るかもしれないしと、自ら護衛にクッキーを渡す。
食べてもらうとやはり、驚きと美味しさに無言で食べていく。
「あと、すみませんがドライフラワーはお返しします」
エレラは空気が緩くなった隙にドライフラワーを返却。
なにか、嫌だったろうかと聞かれるが首を振る。
「この商品は、エレラの売ったものの一つだ。この国に流れてきたものがうちに寄越されるのは、特になにも不手際と思ってない。ただ、返すだけだから気にしなくていい」
男が理由を話すと、王はすごく驚いた。
「なんと。ドライフラワーはエレラ殿の作ったものだったのか。それは知らずに申し訳ない」
驚いたままの顔の国の長は、しゅんとする。
「このクッキーはとても美味しかった……それと、なにか欲しいものはないのかな」
ドライフラワーは不発だったゆえ、ほかのものに変えようとしている。