83王家へ苦情、男爵家の爵位返上(王家サイド)
王は震える体で手元にある手紙を読み終えると、弾ける寸前の様子で子飼いに命令する。
「ここに書かれている男爵家を全員呼び出せ。速やかに」
怒りも感じられる声音に子飼いは音も無く王宮を走った。
そして、兵士を収集し男爵達を連れてくる様に王から命じられたことを伝える。
兵士達は、貴族を捕らえに行くなどという非常事態に、気を引き締められた。
男爵家に着くと民家と変わらない装いに呆れ果てた。
市民と変わりないのに、王を怒らせるとは何様だと。
家に行き呼び出し、全員を捕える。
「王から男爵家に命がくだった」
「はい……なぜかはすでにわかっております」
男爵はまだ若いはずだが、一回り年老いた顔をしていた。
シナっとなった男爵や娘、妻に息子が連れて行かれる。
「こんなの、横暴ですわ」
娘は冷静に対処しているが、男爵にばちんと叩かれて黙る。
「いっ」
娘は納得できないのか父親をにらみつける。
「黙れ。男爵家を潰したのはお前だ」
「そんなはずありません!水筒の権利とレシピを教えてもらおうとしただけではありませんかっ」
「お前は自分が考えたものを赤の他人に譲れと、ただで教えろと言われて素直に渡すというのだな!?」
令嬢はふふ、と笑みを浮かべる。
「なにをいうのかと思えば、うちは貴族なのですよ。だれかに奪われるなんてあるわけがありません」
「貴族か平民かの話をしているのではない!貴族でなかったらの仮定をしろと言っているのだぞ」
男爵は娘の優越感の滲む声に絶望感が押し寄せる。
「はい?たかだか市場に売られているものを買い取ってあげようと」
「買い取ることさえ、やめたではないかっ」
言い合いを始めた親子に兵達は気にしないで王の前まで進む。
「そなたがSランクを怒らせた男爵か」
「いえ、怒らせたわけでは」
「しかし、現に水筒を寄越せと無理矢理奪おうとしたと報告されているぞ」
「はい……そのようなことを、本人に向かって直接言ったと娘は言っております」
父親は刑を待つ者として気力を失っていた。
「それについて、抗議の言葉を受けた私はどのような顔をすればいいのかぜひ教えてくれないか」
「誠に、誠に申し訳あり」
「謝られてもな……私はSランクの彼を一度我が国の者のことで怒らせている。なのに、これは二度目になる」
言葉を遮られて責め苦を負わされる男爵家。
娘以外は何が起きたかわかっており、顔色が悪い。
「謝罪と慰謝料。そして、男爵家は速やかに爵位の返上を申し出る様に」
「はい。心得ております。その準備をしている最中でした」
父親の男爵当主に娘が「お父様!?」と叫ぶ。
「そこの令嬢からありとあらゆる私物と貯めている資金を取り上げるように」
「なっ」
「はい」
「お、お父様!なぜ!」
娘は私のものなのに、と続ける。
「すみませぬ。娘と話してもよろしいですか?」
王に話す許可を得る。
「許可する」
父親は娘に向き合う。
「お前のもの取り上げることになぜそこまで怒る」
男爵は淡々と教える為に問いかける。
「それはっ、服もお金も私が昔から買ったものです。お金も私が得たものです!取り上げるなんてっ」
「お前も彼らから水筒を奪ろうとしたくせにか?」
「あれは!レシピを教えて欲しくて。貴族の役に立てるのだから差し出すのが市民の義務……」
「彼らは我が国の国民ではない。国民だとしても、奪い取る権利はお前にはないっ」
傲慢に傲慢に重ねられる言葉。
父親はどうしてそんな思考になったのかと頭が痛くなる。
小さな領地を持つ男爵家にとって、お金が豊富に入ってくるというわけではない。
「しかしっ、ですね。私たちが水筒を販売すれば資金が潤い我が家は安定してお金を稼げると思い」
「なぜタダで奪う?せめて金を払う様に交渉したらよかったではないか。なぜ、無料で?」
「それは……相手は水筒で稼いでいたからお金は支払う必要はないかと。でも、今は払う意思があります」
「あっても売らないと彼らは言ったと聞いた」
「ですが、あの様な便利なものは貴族である私達が売ればもっと上手く売れます」
「はぁ」
もう、この子はダメだと父親は目元を暗くする。
「では、お前の私物を全て取り上げるのは許されるとお前が証明したな」
「え、いえ、だから、なぜ私のものを?」
「別に構わないだろ。私の方が、いや……爵位の上の方々に寄付するか、市民に渡すために私が無償で配る。上手く私の方が使えるみたいだしな」
男爵当主は分かりやすく例えた。
「はい?私の私物を、何の理由があってですか?別に無償で配る方法でなく、せめて値段をつけて売って欲しいのですが」
娘は混乱してきたらしく、売ることに抵抗がなくなってきた。
「お前が無償で下のものである人間から権利をむしり取ろうとしたことを真似しただけだが?私はお前の父であり、当主。お前のものを取り上げて上手く使えるから、配る。それでいい。今後もお前がなにか得る度に取り上げていくことにする」
「へ!?な、そんなの理不尽です」
「理不尽だ」
「理不尽とわかっていてやるなんて、酷いではないですか!?」
「そうか?お前はまるで当然の様に同じことをしたな。おまけにお前のせいで爵位も返上する。私からしたらお前のしたことが理不尽だったわけだ。どうだ?父から、母から弟から生きる糧を奪った感想は……?」
父親の言葉になにも発せなくなる長女。
「父様、僕からもいい?」
長男であり、令嬢から見て弟が意見を述べる。




