81高飛車男爵令嬢が水筒を寄越せと命令してくる
他にもナツメグっぽいものや、クミンのようなものも見つけてあるだけ買う。
店主の人は好奇心と物珍しさで買った調味料だったが、全く売れずあと少しで廃棄処分行きだったと泣いて喜び、値段を安くしてくれた。
「もしよかったら、料理に使える方法をお教えしましょうか」
「えっ!」
「いいのか?」
コレスに聞かれるが頷く。
また買ってしまうかも知れないし。
「えっと、ゴマはこうこう、こうで、ナツメグは、こうで」
説明し終わると、男の人はキラキラした顔で絶対にそれを使いますと言い、大喜び。
買い物を終えて帰り道。
「よかったのか。教えて。特許登録するか?」
「そこはコレスの判断に任せるよ。料理は真似したくても、作る人によって味が変わるけどね」
頷きながら続ける。
エレラはスッと手を繋ぐコレスにまあ、今日は調味料を買ってくれたしと許すことにした。
トカゲドリを飼育し始めたコレスは、毎日新鮮な卵を持ってきた。
「新鮮な卵、最高。うまうま」
「確かに凄く美味いな」
彼も美味しそうに食べていて、気に入ってくれている。
今日も水筒を補充しに行く。
ギルド員は配置しない。
市場に行くと、すでに何人かちらほら待っている様子だった。
補充し終えると今日も今日とて、水筒作り。
「ちょっと、宜しい?」
「んっ?」
呼び止められて振り向くと装い豪華な女が、こちらを見ていた。
コレスが前に出る。
「なんだ」
「まあ、私を男爵の娘と知ってのものいい?」
「お前こそ、おれの前でよくも言えたな」
コレスがゴゴゴ、と腕を組む。
その男爵子女の護衛が執事っぽい人が「お嬢様」と呼びかけて止めようとしている。
コレスの圧迫感にビビっていた。
「ふん。その水筒はあなたの商品よね。その商品の作り方をうちに教えなさい」
「うわぁ。こてっこてのテンプレだっ!」
「なに、てんぷら?」
コレスがヒソっと聞いてくる。
「異世界じゃ定番のトラブルだよ。よくある展開なんだよねこれ」
「よくあるのか」
「あるから皆、こういう展開好きで」
と、二人で身を寄せ合い話していると、男爵令嬢がキーキーした声を発する。
「なにをしているの?早くなさい。献上なさい」
「買い取ることすらしないって」
勝手すぎる。
「断る。バカなことを言わずに家に帰るんだな」
コレスは執事みたいな人の方へ行き、なんという男爵だと聞いてくる。
「う、うちは」
「早く言え。訴えてやる。潰してやるから。早く」
「ぐ……うちは!」
という勢いで家名を白状する。
「へえ、確かに記憶した」
「記憶したとは光栄ね」
そういう意味で聞いたんじゃないと思うけど。
令嬢は何故か潰すという部分が聞こえなかったらしい。
聞いておかないといけないと思うけどなぁ。
「黙って家に帰って伝えろ。Sランクハンターコレスの名を。消えろ」
「なっ、なっ」
男爵の娘とやらはどれに驚いているのか。
「私に向かって消えろですって!?」
「Sランク!?」
男と女性の声が重なるが、驚きの方向は逆である。
「お嬢様!ダメです!」
「煩いわよ」
「うちの男爵家など、簡単になくなってしまいます!」
おやめください、おやめください、と男が女をとめる。
しかし、Sランクの怖さを知らない子なのだろう。
「失せろ。貴様の家はこのおれが確実に潰す。首を洗って待っていろ。妻から作ったものを奪う奴は誰だろうと許さない」
コレスが怒りのあまり瞳を光らせた。
魔力が目に集まっているせいだろう。
「ひっ、まさか国内に二、三人しかいないランカーとはっ」
男は令嬢を無理矢理引っ張っていく。
それに文句を言う声が聞こえてきた。
結局謝らないのね。
「謝ればまだマシな状態になったのに」
流石に許さない、絶対許すまじということもないので謝って欲しかった。
「離しなさい!我が男爵家っ」
「旦那様にご報告をせねばなりません!」
「あの水筒は金のなる木なのよ!みすみす他家に奪われてはならないの」
(人の商品に対して好き勝手言ってるなー)
それよりも、側にいる男の瞳が男爵達を捉えている。
家まで把握しに行くんだろうね。
「少し動く」
「分かった」
コレスはそのまま男爵の家へ行くのだろうと頷く。
エレラは直ぐ帰る。
守りは魔法でしてあるので、安全は確保されていると、彼は告げていく。
一瞬でいなくなった男。
それを見送り、自分は家へ戻る。
今日はそういう日になるのだろう。
なにをしようかなと思案する。
(妖精達とクッキーでも作ってようかな。ひたすら数を作るしか方法がないし)
「焦がさなくなってきたのって、妖精達がコントロールしてくれてるってことだよね」
一人で納得しながら、家へ入る。
「ただいま。とんぼ返りしてきちゃった」
妖精達とトカゲドリに挨拶をする。
トカゲドリは外にいる。
中にいても聞こえるとコレスは言っていたので、聞こえていることだろう。
クッキーを焼くことに決めたのだと妖精らに言う。
オーブンみたいな機器で焼く為に妖精達にトカゲドリの卵を使って作る。
とてもよい卵なので、失敗したくないことを熱意を持って伝えた。
「こねる。こねる。形を整える」
そして、クッキーの生地を入れてコントロールを頼む。
彼らに祈る。
なんとか手を組み合わせて、時間を過ごす。




