76トカゲドリは最恐生物
水筒を売りにいく日は前もって決めてあるので、今日は何もしない日にしてある。
売れ行きがいいからといって、連日するのは疲れが取れない。
商売をするためにここにいるわけではないから、売ることに重きを置いていなかった。
コレスも従業員を雇うことを決めて二人で過ごせることに賛成している。
水筒を望む人達には申し訳ないが、温泉の生活を中心にしたい。
のんびりしたいのだ。
今日は何もしない日なので、商いに関連することはしない。
なにをしようかなと考えて、外にあるボウリングが目に入る。
「コレス、あのボウリングを有料にするのはどうかな」
「……商いに関することはやらないんじゃなかったか」
不思議そうに問われる。
「え、あ、うん」
正直一日中、考えないという意味じゃなく軽く離れていようという意味で、思考の断食をしたいわけじゃなかった。
「じゃあ、卵について議論したい」
「命に関わる」
「そうだけど!考えて閃いたんだけど、鳥を飼うのってどうかな?卵が取れる鳥」
「ここに長く住む予定なら、飼うのも検討する」
コレスも納得の話題。
卵を産む鳥を買うのは、異世界じゃ王道な行動。
なんら、問題はない。
普通普通。
鳥のあてがあるのかと聞く。
「あるぞ。野生だから捕まえてくる」
「鳥って普通野生だよね……その、穏やかな鳥っている?」
「いるかもしれないが、絶滅してる可能性が高いだけだ。もう一つは金がある奴が独占しているかもしれない」
屋敷に忍び込み、もとい調査をしていると鳥を見かけるんだそう。
それは飼われる前提の鳥故に、鳴くだけらしい。
コレスが生け獲りにしようとしている鳥を明日以降持ち帰ってくると彼は期待していてくれ、と胸をそらして伝えてくる。
なぜそんなに嬉しそうなのかと、疑問を抱く。
それに、納得と驚きが襲いかかってきたのは直ぐ。
ぐったりと気絶しているらしい鳥っぽいというよりキメラっぽさのある生物を連れてきたことによる。
「え、それ……鳥?」
どちらかというと、半分鱗がある。
トカゲ要素が見受けられる。
「トカゲドリだ」
男のさらりと紹介してきたものにびっくり。
「トカゲドリ!?」
この世界では超超超高級食材である卵を産む鳥として有名だ。
異世界で言うなれば、トリュフ的な。
王族でさえ、滅多に口に入れられない幻の鳥。
何故なら。
「ええ!そんなのこんなところに置かないでっ!今直ぐ閉じ込めて!」
とんでもない暴れ鳥で、モンスターさえも倒してしまう。
モンスターの分類か、鳥の分類が曖昧な生物なのだ。
そんな最強の一角である鳥類。
こんなふうに持ってくるような鳥、じゃない。
びくりと肩が震える。
あまりにも怖すぎる。
コレスの襟首をガクガクして、元いたところに返してこいと言わなかった自分を褒めて欲しいほどだ。
「とととととと、トカゲドリ……!有名な凶暴生物」
この異世界で学ぶことの中には、危険だから近寄らないようにという喚起を足すことがある。
その一つのトカゲドリ。
もっと凄く高難易度な地域にいて、お目にかかることは普通はあり得ない。
「大丈夫だ。檻を作って逃げ出さないようにする」
「そう言う問題じゃなくない?」
呑気に言うが、怖すぎて怒りが湧く。
地上にサメがいるようなもの。
食べられたりはしないけど、暴れたらタダでは済まない。
「そもそも町で飼うの、ダメって言われるよね」
「調べたが、町に持ち込むなという生物には加えられてない」
「そりゃそうだー!トカゲドリを持ち込むなんて誰もできないんだからー!」
つい、声をあげてしまう。
トカゲドリが起きるかもしれないのですぐに小声になる。
「なんでトカゲドリ?よりにもよって」
「高級卵だ。食いたいよな?食いたく……ないか」
どちらにすると問いかけてくる。
食べたことはないけれど、とっても美味しいと聞いたことがある。
天の食べ物と言われているらしい。
ごくりと喉が無意識に動く。
「コレスは食べたことある?」
「だから捕まえたんだ。お前の舌は聞いていると肥えている。だから、普通の卵じゃ物足りないんじゃないかと、おれは考えた。どうだ」
聞かれて、やや怠慢な動きで頷き返す。
「よくわかったね」
「お前の作る料理は料理屋より美味いのに、お前はまだ完成してないというから、何度も驚いているぞ」
「それもそうか。無意識だったかも」
異世界のあの、舌を巻く数々の材料や調味料を思えば体が納得していないのだ。
「その卵、今あるの?」
「あるぞ。日にちが半日経過しているが。食べるか」
「なぁっ!」
ほれ、と取り出されるピカピカツヤツヤの卵。
これ一つで値段は……。
頭がくらくらしてきた。
ぶるっと震える手で受け取ろうとしてハッとなる。
このままでは落としそうだ。
「待って、待って。それ持ってて。コレスが手に持ってて。私が持ったらうっかり落としそうで」
彼をフライパンのところまで案内。
「フライパンに落として」
「ん」
パカっという音が耳に届いた頃にはジュワリという音がフライパンの中から響いてきた。
心の準備ができてないのに早すぎる。
作業の工程に慌てた。
「えっ、弱火弱火!妖精えええ!卵焦がさず焼いてっ」
自分の手腕では心許なく、火の調節がプロかがっている専門家に頼む。
「半分、いや、三分のニあげるから頼みますほんとお」
値段的に半分はおこがましいかと言い直す。
「よくわかってねえぞ。そいつら」
「わわわ、わかってる!今話しかけないで!香りを堪能するからっ」
「そんなに飢えてたとは」
飢えではなく、渇望と言いなさい。




