74溺愛系への理解度は深い
防音についてちらりと言ってみたら、見事に再現してくれたのだ。
「これって、防音できてる?」
「できてる」
「喋ってる方は、聞こえてないか判断しにくいね」
「外で雷を使う時に使ってるから、かなり精度は上がってるはずだ。どんどん音に対する周りの驚きがなくなってきている」
「そっちで使ってるのか」
雷について拙い伝え方ではあるが伝えたところ、少しずつできているらしい。
小規模だったものが、中規模に進化しているのだとか。
「タケノコも早く周りが食べておいしさを知っていけば、売れるぞ」
タケノコについて、早く売りたがっている。
それは売れても構わないようだ。
タケノコは美味しいのでおすすめしたい。
「でも、日持ちそこまでしないからなぁ」
やはり、生を売るのは不安が残るけど。
「実験をしたが、日持ちするぞ」
「え、そうなの?」
「なかなか保つ」
「それを食べてお腹壊さなかったの」
「壊すわけがない。今まで壊したことはない。お前は死ぬかもしれないから食べさせることはしないが」
「私は死ぬのに平気とか」
胃が鋼でできているってことかな。
水筒は完売した。
半分はコレスがギルドで宣伝していた効果もあり、売り切れになる。
水の冷たさもあるし、後々絶対に話題になるぞという自信がある。
「ありがとう。初日はそんなに売れないかなって、思ってたから完売するとは思ってなかった」
伝えると夫は、フッと笑ってこちらを見つめてきた。
それは、夕日に照らされていて余計に相手の瞳が光っている。
「売るのは楽しい。隣にずっといても変に思われないしな」
「ほんとに隣にいるの好きだね」
「なにか、嫌だったら言ってくれれば善処してみる」
ちょっと困ったように告げられて、別に気にしてないよと笑う。
笑みは普通だったからか、こちらを見透かそうとして覗き込む。
「本当に気にしないから好きに過ごせばいいよ。コレスみたいな人、異世界じゃ珍しくないもん」
「珍しくない?だが、周りを観察した時に同じようなことをしている奴は、いない」
「溺愛系では特に変じゃないから、平気平気。よくあるものだから気にしなくていいってば」
そういう小説は大好きで読み耽ったものだ。
懐かしい。
夜更かしして読むことなんて、ざらにあった。
うんうんと、頷く。
理解が及んでいるエレラに、コレスは戸惑った顔で渋々納得した。
本当に納得したのかは知らない。
別に納得しなくても、こっちの解像度は高度に、溢れんばかりに心得ているのだ。
こちらの言葉によくわからないと思っているのはわかっている。
こういうのは、体験しなければ実感できないだろう。
彼に溺愛系を是非、読んで共感でもしてほしい。
描ければいいんだけど……と思ったものの、絵は上手じゃない。
子供の時に描いて以来で、目がやたら大きい女の子しか描けない。
過去に目ばかり書き続けたせいで、目だけ巧い。
それ以外はてんでダメ。
なので、漫画なんてとてもではないが描けやしない。
書けるのは、文章。
文章なら下手なりに、セリフくらいはかけるから。
文章ならば下手もなにもない。
いいことを思いついたけれど、やることがまだ残っているのでそれが落ち着いてからになる。
「小説書くのもいいかもな」
「小説、書くのか?他のやつに読ませるのか。おれ以外のやつに」
「おお、シーエムに出てきそうな言葉!」
「シーエム?」
テレビに出てくる広告のことであると言えば、彼はあれのことかとすぐに把握。
それができるということは、まだこちらの夢に入り浸っている証拠か。
乙女がキュンとするセリフ集に載ってそうな言葉を悉く吐く。
「まあまあ、私のやりたいことは、やらせてくれるんじゃなかったの」
目を上に向けて相手に問いかける。
それにむぐっとなる弱さ。
詰まるのならば言わねばよかったのに。
「コレスも好きなことをして、私が好きなことできないなんて、それこそ不平等でしょっ?」
「……わかった」
なにがわかったのかね。
そもそも、コレスの承認の有無によって己の行動はなんら変わらない。




