72サクラ、始動
自分が魔力入り温泉に拘ったのは、疲労回復があるから。
愛し子が、魔力温泉に浸かる機会がないので妖精の有無については、誰も着目してなかったかも。
今回、二人が温泉に入っているからと入ってくる妖精がたくさんいる。
「でも、見えないんだよね?妖精達は。働いてもらうにしても、見えないっなるとやれることはなかなか……ないかな?」
「今お前に、できることはあると意見してきてるぞ」
妖精達がこちらに語りかけているらしい。
とはいってもなぁ、なにがあるんだろう。
「質がよくなると言っている」
「質?魔法の?」
「お前の植物魔法も質がよくなってるらしいぞ。前にできなかったサクラを出してみたらどうだ」
「ええ!?やってみる!」
早速外に出てサクラを思い浮かべて、集中。
ふわりと光って、地面から目がにょきりと出た。
「出たっ、出たっ」
出てくれたことに感動した。
「ううー、やっぱり質がいいから……出たんだ」
惚けてしまい、芽を見る。
妖精達はその芽に集っているらしい。
一緒に喜んでくれていると教えられる。
「やっと、見られる……!」
「よかったな。これに免じて衣食住は確保してやるか」
コレスが許可を出す。
温泉だけでは足りぬ、と思っていたのだ。
サクラが大きくなるのはもう少しかかる。
それまでにはいくつか植えておきたい。
「絶対に栞とかドライフラワーにする」
夫はそっとエレラの肩を緩く持つ。
「うう、なんかありがとう」
「おれへの礼が曖昧なのはなぜだ?」
解せないという顔をした相手はそれでも、妻を見つめるのをやめなかった。
市場に出向いて水筒を売る日が来た。
コレスは絶対にギルドの仕事をしないようにと時間を調節しているので、同じくずっと売る時はいる。
市場は、フリーマーケットという仕組みと似ていた。
「水筒って初出しだからどうしようかなって思ってたけど、意外と覗いてくれる人多いね」
「水が必要な国だから、水関連の商品は注目されやすいみたいだ。ギルドで見せつけておいた」
また見せつけるやり方でやってくれたらしい。
明日から売るぞと。
だから、売れ行きがよかったのか。
「先行でギルド員達に売り付け、押し付けておいたから実用性は広まっている」
単にコレスに話しかけられないから、売られるのを待つ視線がいつもあったという。
それで焦っているらしい。
やり方がかなり無茶苦茶だが、効果はあったようだ。
用意していた数がもう半分も無くなっている。
「これください!ギルドで見てから欲しくて欲しくて」
「はーい」
いつものやり方ではわかりにくいかと、やり方を実演する実演販売もしたいと考えていた。
大きく声を張り上げて、客達に注目してもらう。
「こちらは水筒という商品です!ヒモをつけて、肩にかけて水を持ち運べます!水以外も持ち運べますよーっ」
水を水筒に入れる。
中身は魔力入り温泉である。
なぜかというと、なんとなくだ。
こっちは実演用なのでコレスらの飲料用で。
飲んでどうなるということは、今の所実感はなし。
魔力が増えるというわけじゃない。
年単位でもないと発揮しないのではないか、と予測を立てている。
しかし、肌がツルツルだ。
疲れも取れているかもしれない。
プラス的な効果を期待して、そう感じているだけかもしれないけど。
妖精達が入ることによって、なにか不思議なことが起こる可能性も、なきにしもあらず。
「なに?」
「水筒ですか」
「水を入れるのに固そう」
「気になってきたわ」
客達がこちらにくる。
「一つください」
「こっちにも」
水をいれてない空の水筒を手に渡す。一見、嵩張るように見えて、保温性や保冷性が高い。
それも加えて紹介していく。
紙に書いて店の横に貼り付けている。
説明書も簡単に書いているものをつけた。