69愛し子の条件から外れた
今離れているのはおそらく、コレスの施した瘴気風の魔法か、エレラの妖精の多さに釣られてきたか。
女性の視線がこちらに向く。
どっちにせよ離れたのは確実。
「ミナイサ。あなたは愛し子の条件から外れました」
女性が宣言すると、ミナイサは空気が抜けた風船のようにヘナヘナと崩れ落ちる。
さっきまで暴れていたのに。
なんだか、しんみりした空気の中悪いけれど。
「このことは、夫に報告して愛し子協会に抗議させていただきますね」
にっこり笑みを作る。
「なっ」
「えっ」
愛し子に苦い顔をしていた女性、ざまをみろという視線を向けていた後見人がこちらをギョッとした目で見てきた。
(当たり前でしょうに。今私、その子に襲われたんですが?その前に変ないいかがかりでいきなり迫ってきたし)
シラッとした目を三人に向ける。
あなた達、なにがしたかったの?という責める眼差し。
「も、申し訳ございませんっ」
「いいえ、おかまいなく。いまさら謝られてももう彼女の奇行は治らなさそうですし。謝られたってまたこういうことを起こすでしょう」
「いえ、いえ!」
こちらの妖精の数を想像で数えた場合、かなりの数がいるとわかる。
ということは、自分は愛し子になる可能性が高いと思われていた。
しかし、エレラに所属する意思はない。
今から起死回生は無理だろうよ。
自身はずっと旅をしたり、美味しいものを食べたりしたいのだ。
愛し子として、この国にいるということは絶対にない。
コレスとて、怒るだろう。
頼るのはあまりしたくないが、国が関与する組織を弾き飛ばすには、同等かそれ以上の力がどうしても必要になる。
そういうときは、力を使うと言われているので、この件では王家に圧力をかけること必須だ。
何度も何度も、男女の仲を気にせず声をかける倫理観の欠けた愛し子を所属させている、愛し子協会にも問題があると思っている。
「あの、こちらの話を」
結局、彼らはミナイサを自由に歩けるようにしている時点で、なんの罰も与えてない。
「ええ。あなたには妖精がたくさんいて、愛し子であることは確実なのです」
問題が起こるとわかっていて解雇してない。
「私が愛し子に危害を加えられて、喜んで愛し子になるって、バカにしてますよね?」
愛し子協会に迷惑をかけられて、すんなり愛し子として申し出ると思い込んでいるのだろうか?
それは少々都合が良すぎる。
「彼女みたいな人の夫に手を出そうとする場所に、行くわけないです。行ったら同じように声をかけられるじゃないですか」
「なっ、愛し子協会にはそんな子達はおりませんっ」
「いやいや、目の前にいますよね?人に害意を持って襲ってくるような人が」
「そ、それは、謝ります。愛し子の総意ではありませんっ」
女性が必死になって言い募る。
けれど、彼女をトップに据えていることを、彼らは忘れているような。
「愛し子協会の、今年の愛し子として新聞に大々的に載せておいて?」
温泉のことを調べるときにこの国について、ある程度予備知識は確保してある。
その中で、新聞みたいな媒体で広められていた。
ミナイサについての見出しが、デカく書かれていた。
「そういえば、載っていましたね。完全に愛し子協会の顔として」
後見人の男がガックリと肩を落とす。
否定したくてもあれだけ大きく記事に取り上げさせておいて、違いますは通じない。
愛し子協会の人達から離れて、市場を回るために再度買い物を仕切り直す。
追ってくる様子はない。
人目があるし。
今も大衆の真ん中でことを起こした。
愛し子のイメージがかなり下がることだろう。
ミナイサは顔がよかったので、人気があるらしかった。
それなのに、中身があれでは。
もう人気は落ちること間違いなしである。
これで、二度と視界に入ってこないでくれればいいんだけど。
最後に謝って欲しかったけど、彼女は謝れない人みたいだから。
周りの人に謝られても、消化不良が積み上がるだけなんだよね。




