67王様が直接家に来たので
追い払った三日後。
また来た人達。
今度は顔色を青くしていた。
さらにさらに、雅な乗り物に乗った人がいそいそとこちらを窺う。
コレスは奥で待っていろと言うので、窓から覗いている今現在。
随分と人が多い。
ぞろぞろやってくるから、目立ったろう。
その人はお付きの人に紹介されてたけど、家を見て口をぱくぱくさせていた。
この人も妖精が見えるらしい。
この国の人は妖精が見える人が多いらしいので、見えても不思議ではないのだ。
しかし、王まで来たということは、愛し子はやはり、国にとって重要な事業か、それに匹敵する神輿だったのか。
どちらにせよ、妻がいる男に声をかけるのはやめさせた方が、本当にいい。
コレスは王という人にもいつもの上から目線を崩さないで、何用だと低い声で問う。
「はっ!それはっ、ですね……」
オドオドしている感じからして、相手がギルド員であることやSランクであることを、掴んでいるらしいことが窺える。
「この度は愛し子のミナイサが、大変ご迷惑をおかけしてしまっていたと、こうして謝りにきました」
オドオドする人の代わりに隣にいた偉そうな立場の人が話す。
女性ではないということは王妃ではない。
多分、宰相。
「本人は来ないんだな」
役職的に、代わりに話せる存在なんて限られている。
王はハッとした顔で、家の周りを見回してコレスに向き直る。
「コレス様。この家の妖精は」
急に話し出す王は、コレスの射殺すような目つきを気にしてない。
というより、気付いてなさそう。
興奮して他が目に入ってないと、見受けられる。
「妖精?なんのことだか」
周りの人達は気付いて焦る様子が広がった。
「この家にたくさん飛んでいます」
もう話すのはやめて帰った方がいい、という周りの視線に気付かない国の長。
「さぁ。知らん。話すことがないんなら帰れ」
余程妖精の数が圧巻のようで。
「王!」
独断専行気味の代表へ、鋭い声が飛んでくる。
「あっ、そう、だったな」
王は意識を戻してコレスへと顔を向けて謝る。
「申し訳ない。愛し子にも謝らせにくる」
「謝らせなくてもいいから、二度とおれに話しかけないようにしろ」
それはそうだ。
何度も話しかけて来られると謝られても意味がないし、やめさせないと謝りに来る、無限繰り返しが再び起こる。
やめさせることが何よりの詫びだ。
Sランクだからこそ、こんな高貴な人まで来たんだろうな。
そうじゃないと、示談にされて終わり。
コレスが妖精についてしらばっくれると、王は呆然とした目を家に向ける。
ふん、と鼻を鳴らしてドアを威圧的に閉めた。
引き続き、窓の中から外を見ていると集団は声をこちらに何度かかけて、直ぐに切り替えて帰っていく。
強者な男の家に居座るのは、心象が悪いと思ったに違いない。
そそくさと帰っていく集団を見送ると、立ち上がる。
「謝りにきただけだったね」
まともに謝れたかは別にして。
「最初はそうだったが、この家を見て目の色を変え出した。謝罪が後回しになって、心象が地に落ちてる」
感想をいただいた。
やはり、家について聞かれたのが怒りに拍車をかけたらしい。
「妖精見て顎凄く落ちてたけど、そんなに総数いる?」
増えたのなら、ミルクの量を増やすべきかも。
「さらに増えた」
「妖精用のコップにミルク増やしとこ」
「与えなくても死にやしないが」
「それでも、あげたいなぁ」
野良猫みたいなものかな。
なにが目的で来てるのかは、わからないけど。
「自分達も紐で散歩したいらしい」
「えー、そっち?」
普通嫌がるのではないかと思うが、人とは感性が違うのだなきっと。
実はもうヒモをつける意味がないと話し出す彼。
逃げなくなったらしい。
愛し子ミナイサのところへ、帰ろうとする衝動が消えたみたいだ。
エレラはコップをさらに追加して、ミルクを注ぎ入れる。
「愛し子用の魔法が完成したから、あの女に貼り付けてくる。もう妖精が寄ってきてもあいつを選ばない」
楽しそうに笑う相手に、うんと頷く。
それが気掛かりだった。
ここへ来たら、また乗り換えるんじゃないのかって。




