63妖精達にも実用家具を
湯船一つ分である。
そんなのは温泉じゃない。
足を伸ばせないと、温泉は。
折角作るので大きめのものを作る。魔力温泉なので疲労回復以外にも、色んな効能がありそう。
だが、バレるので専門家も呼ばない。
魔力感知ができる人がいた場合、王族も知ることになるが指一本だって触らせない。
温泉魔力入りの所有者について調べたが、正当に買い取ってる割にそこまで活用されてなかった。
温泉ではなく、シャワーや湯船に入れて使っている、ということらしい。
源泉を見つけておいて。
独占して庶民に振る舞わないのは、購入しているからわかる。
そこは勝手にしていればいい。
なので、絶対に渡さない。
源泉の方の土地も買い上げ、法律家っぽい人に盗られないように相談もして製作した後の土地は、完全にコレスのもの。
王家に盗られないようにというエレラの押しに賛同したので、本気でやった。
温泉を見つけるのは簡単でも、魔力入りの温泉は滅多にない。
コレスらも見つけるのが大変で、妖精に頼んで漸く見つけたのだ。
妖精達に、あなた達も入ってみたらと源泉の方を勧めた。
そうして入ったら、かなり気に入ったらしい。
エレラもコレスに頼んで二度、源泉の方に入った時のことだ。
家ができるまでなんて、我慢できず。
コレスも入ったのだが、不思議だなという感想がきて、不思議とはという話題に移った。
そんな回想をしている間に、温泉についての話し合いが進行していく。
「源泉、掛け流しという方法は……これでよろしいですか」
「それでいい。変更はなにがあってもやるな」
温泉については、かなり具体的に要望をした。
そこを拘り、あとの家はおまかせ。
(家に温泉、家に温泉!)
内心、毎日が楽しみで埋め尽くされている。
新居で、お風呂は源泉の温泉。
「男用と女用を作るとのことですけれど」
聞こえてくる内容に、ウンウンとなる。
勿論、女用はエレラ一人で使う。
コレスと話し合った時に、二つ分ければいいと真っ先に提案された。
コレスは今までシャワーの生活なので、温泉に入るかわからないと困惑気味であったが。
それでも、折角見つけたので入るべきだと説得した。
魔力有りなので、どんな効果が発現するかわからない。
入った方が、何かしら得られるかもしれないのだ。
妖精らと入ってから、なんだか体も軽いのでやはり魔力入りは体に良さそうだ。
健康になっている。
コレスからすれば、魔力があっても身体能力派なので関係ないと思ってしまうのだろう。
それは勿体無い、勿体無さ過ぎる。
エレラの懇願にジーンとなったのかわかったと返事した時の彼の顔。
緩んだかんばせは、顔が整っているからこそ、ここに誰かいたら黄色い声をあげていたなと他人事に思ったほどだ。
ただの現実逃避じみたものだけど。
そのついでに、キスしてきそうな雰囲気だったので、踵を返しておいた。
懇願を毎回、夫婦のふれあいのようにしようとするのはどうかと思う。
家を建てる場所から離れて、家具を探しに行く。
コレスは源泉を掘り起こしてからちょっとずつ、家の温泉を作る場所に水を引く作業をしているらしい。
エレラもなにかしようかと言うと、見ていて欲しいと頼まれた。
何を見るのかと聞くと、作業をする自身を見ていてくれと述べてきた。
どういうこと?と疑問が湧く。
着いていくと、本当に掘ったりするのを見ているだけだった。
背負子にエレラをまた乗せられて本気で喜び、ビュンビュンと山を登って行った。
街に着くとエレラ達は家具や調理器具を見繕って、予約していく。
すでに街の中では家が建つのではないかという話が出ていたらしく、コレスの耳に入る。
どれだけ人を少なくしても、噂は立つという見本だ。
妖精達を伴う。
妖精達にどれがいいかと聞く。
「何のことだと聞かれている。どういうことか……おれにもわからない」
「あー、説明してなかった?ごめんごめん」
急な話に聞こえたようで、考えていた内容を披露。
「妖精達も家に住むのなら、家の家具とかコップとか選んでもらおうと思ってて。ベットのことは考えてなかったけど、いるかなぁって」
「妖精に、ベット?いるか?」
「いるんじゃないかな?妖精が犬猫だと想像したら」
見えてないとはいえ、いないのではなく存在している。
普段はどこで雑魚寝をしているのか知らないけど、見えないから用意するということが頭から抜け落ちていた。
「そんなのいら……!」
否定しようとしたコレスが振り払う仕草をするので、これはいると抗議してきているのだなー、と察する。
「纏わりついてきて、鬱陶しい」
「なら、買おうよ。私の隣にでもいいから」
「……仕方ねえ」
男は息を吐いて、妖精達の投票で決まった食器や小さな籠を手に取る。
ベットはカゴでいいらしい。
ならば、なかにふわふわのものを詰めよう。
寝具の店に小さなクッションを注文する。
柄も妖精に決めさせる。
妖精達には温泉を見つけてくれたという功績があるので、お礼のつもりでもあるし。
愛し子から引き離してまで留まらせているからこそ、責任を持って世話をしておかないと。
「落ち着けお前ら。ちゃんと持って帰ってやるから。静かにしろ」
コレスは面倒そうに顔をしかめた。
妖精に催促されているみたい。
「こんなに喜ぶなんて」
自身でも提案したが、予想外のことに驚くばかり。
「こんな生態は、他のやつも知らないだろうな。愛し子も愛し子協会も」
「そこは知っておくべきだと思う」
妖精に依存している制度を謳っているのに、誰も妖精に対してお返ししないとは。




