61金色の糸ヒモを付けて散歩へ
翌朝、妖精達へ同じように朝食を用意して新作の花を渡す。
今日はスイートピーに似た花だ。
色は薄緑にした。
練習になるので、誰かに渡すために作るのはかなりやり甲斐が出てきていい気分転換にもなる。
コレスがその様子を嫉妬深く見つめるのだけは、どうかと思った。
妖精に嫉妬するのはやめてくれと言いたいが、彼にはとりあえず違う花をあげる。
これも練習になるので、悪くない習慣になっていた。
大工が来るのは昼前なので、まだ余裕がある。
その間に散歩も必要だ。
妖精達の。
コレスがヒモをつけたまま、外を行く。
やっぱり犬の扱い方になりつつある。
愛し子が見たらどう思うだろう。
激怒か唖然か。
笑う人はいなさそう。
愛し子ミナイサに戻らなかったら、ヒモなんて付けないんだけど。
愛し子に妖精を寄せ付けなくする件について、進行中なのかと彼に尋ねる。
「妖精達の香りの好みの有無はなかなか厄介だ。人間が嫌いな匂いでも関係なく寄る。いい香りだとしても特に差異はなかった」
「香りじゃ難しいのかも……なら、呪いに似たものを付与するのは?呪いじゃないから呪われないけど、妖精が愛し子が呪われているって勘違いしたら寄ってこないんじゃない?」
よくある設定で、穢れや瘴気というものがある。
それに似たものを、相手に引っ付けるのだ。
別に呪うわけじゃないから、彼女になにかあるわけもない。
無害なものになる。
ということを解説していくと、彼はウンウン頷く。
「お前の記憶、夢にもそんなものがあったな。いい案だ……」
そして、ジーッと眺めてくる。
キスしていいか?といつもの流れで聞いてくるかと思いきや聞いてこない。
珍しいこともあるんだ。
「手を繋ぎたい」
「……変化球」
そうきたか。
エレラは長考した。
「ロープを互いに持って、それを手繋ぎってことで」
コレスはやや怠慢に頷き、散歩を終わらせてゴソゴソ荷物を漁る。
リボンに使われてそうな、ひらひらしたものを出してきた。
それを自分の手首に巻き付けてエレラに紐の部分を渡してくる。
「犬の散歩じゃないんだから」
ロープを互いに持っていく構想が、ズレている。
何故そっちは巻き付けた。
「持っててくれ」
「いやいや、無理」
「なに?」
「こっちのセリフなんだけど?手に巻き付けてないで、早くそっちも端を握って」
言い直すと渋々手首から解く。
なんで、渋々なんだ。
腕から指先に移動するリボン。
二人でそれを持ち寄る。
妖精達はどうするのかと聞くと、留守番だなと言い切る男。
その途端、顔を歪めてシッシと手首を振り払う仕草をする。
閃いた。
これは、妖精達が彼へ抗議か何かしたんだなと。
「連れてけと言われてる」
「なんでだろ」
「留守番は嫌らしい」
益々犬化、猫化に拍車がかかっている。
「連れていけば?妖精達も気分転換に外でたいんじゃ?」
散歩と温泉の発掘くらいしかしてないし。
温泉は見つけたので、あとは散歩だけだ。
なんなら、エレラがヒモを持っていても構わない。
ヒモなら見えるだろうから。
「ダメだ。お前の手はおれだけのもの。羽付きどもにやる空きはない」
エレラの手はエレラだけのものである。
生まれた時から、決まっていることなんだけど。
「まあまあ。取り敢えず行こう」
妖精達を伴うことになった。
半分持つと交渉してなんとか手首に巻かれる金色の糸。
これが魔力の糸で、妖精達につけられているものなのか。