52妖精はペット枠
この世で一番無駄である。
それよりも、妖精が見えていない方が大問題じゃないの。
エレラはコレスの肩を軽く叩いて帰路へ。
「え、な、なんで?」
無視していくこちらに、本気で不思議そうにする様子。
ゾッとする。
「妖精がさっきから、愛し子のところに行こうとしている」
「蛮行してるのに、愛し子好きなの?物好き過ぎる」
さっきからなにも気付かない、ミナイサ。
捕らえられた愛し子の妖精は、右往左往しているとのこと。
「どうやって愛し子を剥奪?」
「考えてはある。脅す」
「また集まれば関係ないよね」
「一時的にも剥奪できるかもしれねぇんだ。やらないよりはいい」
こめかみに青筋を浮かべる男は、絶対にひっぺ返すと意気込んだ。
「剥がして明日からただの女として生きてもらう。絶対だ」
エレラをこれといって、侮辱したのが相当頭に来てしまったのだ。
妻をバカにして夫が怒らないわけがない。
特に妻が好きならば。
それがわからないあの子の倫理観が大変、不気味。
誰だって、大切なものを切り捨てたら怒るっていうのに。
絶対今まで怒った人もいるはずだ。
愛し子ミナイサのそばにいた男が、強いのかも。
「コレス。気になったんだけど」
「あの女の住む場所を爆散させるのか」
「なにも言ってない言ってない」
首を振る。
「そばにいた後見人って人、強い人なの?庇ったし、コレスを見てすぐ謝ってきたから」
あんなに早く謝るのは、ミナイサのトラブルを作る性格のせいかもしれないけど。
「?……眼中になくてあまり見てなかったな。多分、元冒険者かもしれない。やっぱり覚えてないな」
「確かにミナイサって子の印象が強かったから。でも、すぐに攻撃に反応したね」
推測する。
それは、単に暇つぶし。
他にめぼしい話題が今はなく、一番新しい出来事を選ぶのが、人というものなのである。
「妖精をどうやって引き離すかだよね……はぁ、妖精はたくさんいるから無理だとして、発生源をどうにかした方が手っ取り早いかも」
「発生源をどうにかする、か」
コレスは顎に手を当てて思案する顔をした。
彼は顔が整っているので、いつでも人の注目を集める。
ある意味見つけやすい。
「あ、あの子に妖精が近寄らなくなるように、妖精だけにしかわからない匂いとかどう?」
「採用」
コレスがエレラに賛同。
コレスは妖精を使って、彼女はどういうことで妖精に好かれているのか調べると言う。
妖精を解き放ったらまた彼女のところに舞い戻るだろうからと、コレスはしばらくミナイサの妖精をここに閉じ込めることにしたらしい。
その間、妖精が見えないエレラは妖精という生き物に興味があった。
異世界では妖精はクッキーやらミルクやらが好きで、美しいものにも惹かれる傾向があることをカルチャーで知っていた。
皆まで言わずともわかるだろう。
「妖精はここで好きに動き回ってるの?イタズラとかされないの?」
「ミナイサの方に行きたくて気が回ってない。まるで中毒のようだ」
「言い方がファンタジーじゃない。ダークファンタジー染みてきたな……」
ホラー展開は嫌だ。
「なら、なにかあげたいんだけどなにがいいかなぁ、ミルクとクッキー作らないと」
市場で買ったミルクを温めてコップに入れる。
そして、ちちちち、と舌を巻いて妖精をこちらへ注目させる。
犬猫のやり方ですが?
と、エレラは過去を思い出す。
猫にこれをやってもちらりとも来なかった苦い経験。
野良猫は全く近寄ってこない。
それが自分の現実だった。
「妖精ならある意味面倒な世話をしなくていいし、いいかも」
犬猫は見えているから、気になるし意外とやらなければいけないことが多岐に渡る。
なので、食費だけで大丈夫かも。
「妖精に物をやるなんて、考えたことのあるやつなんて今までいなかったかもしれんな」
コレスは興味深そうにこちらを見やる。
眺めているってことはここにいるのか、いないのか。
「実況して、実況」
「じっきょー」
「妖精がなにをしているとか、どこにいるとか事細かに説明してほしいんだけど。私には全くいまのところ見えないから」
彼へ催促すると、目を細めてああ、と返事をしてくる。
「妖精たちは今お前の手元のコップを覗いてる」
ちちち、が通じたとな。
本当にこれって効果あったんだなぁ。
あれ?
妖精って、小動物カテゴリってことかな。




