50コレスを怒らせた愛し子の妖精を確保
温泉の源泉を探すことを日々繰り返しては、みんなが入る方の公衆浴場を利用。
いつになれば見つかるのかなと、もしかしたら本当にないのかもしれないなと、諦めに似た気持ちも湧いては消える。
「また会いましたね」
愛し子を名乗る女の子は、コレスを見て嬉しそうに駆け寄ってくる。
傍にいるのは大人だ。
若さ的に親という感じではない。
愛し子なら、国の保護下にあるのでお付きという人材なのか。
「わあ、かっこいいっ。おぼえてますよね?助けてもらったのですけど」
馬車が横転していた時に、仕方なく通る道だったからやっただけ。
コレスはそう言っていた。
それなのに、言い寄る。
彼が言っていたので、間違いなく邪険に思っている。
無言でこちらは立ち尽くす。
どこにいるのかというと公衆浴場だ。
相変わらず彼女の視界にエレラは存在しない。
すでに傍にいるのに、なぜかいないかのように扱われる。
それをなんとも思わないわけではない。
これでも一応コレスの妻。
妻に夫が揃って片方だけに話しかけ続けるのは異様だ。
相手がいるとわかってしまう大人が慌てて愛し子に話しかける。
「ミナイサ!やめなさい。彼は妻帯者だ」
基本、結婚している相手に言い寄るのは白い目で見られる。
倫理観を持たない貴族は奪い取ることを常としているので、なんとも思ってないけどこの子は見た感じ庶民。
「えっ……これ?」
ミナイサと呼ばれた女の子がこちらを見た時、格下を見る顔をし発した。
隣に来た大人がギョッとしたあと、さらなるギョッとした顔を浮かべエレラの隣を見る。
「こ……れ……だと?」
コレスの怒りの制御袋が破裂する音が聞こえた気がした。
(これはぁ、この子が全部悪い)
「命はいらないらしい」
「ひっ、す、すみません!謝らせます、謝らせますから!」
「はっ。で、いつだ?」
鼻で笑う。
「い、今です!今っ、ミナイサ!謝りなさい!」
「きゃっ。もう、なに?後見人ってだけのくせに私に指図しないでよっ」
後見人、すっごい見下されてた。
コントロール不可だ。
ミナイサは嫌そうに、彼の掴んでいる腕を思いっきり引っ掻く。
「ぐっ」
「触らないで」
それを見つめる夫婦。
「傲慢を絵に描いたようだな」
「コレス、例えウマイ」
彼の言葉に心の中ですごく笑った。
顔色が悪い後見人と言われた男は、怒りの入った目を愛し子に向けるけれど、なんとか必死にそれを消す。
相当、日々いびられているらしい。
見ていて、気分は良くないね。
飽きたコレスは手をサッと振る。
網状のものを生成したと思ったら彼女の周りをまんべんなく覆う。
「な、なに!?」
「お、お許しくださいっ」
この世界、夫婦の間に入って横恋慕するのはかなり厳しい目で見られる。
「それは異世界もだけど」
それなのに、言い寄った女が怪我をさせられるかもしれないのは仕方ないと思われる。
特に、相思相愛ならば。
とはいえ、相思相愛ではないものの、片方の逆鱗に触れた愛し子はもう絶対絶滅。
「妖精を補足した。捕える」
「はーい」
手を挙げてノリで答えた。
こうやって、今なにをしているのか教えてくれている。
「え、な、なに?」
バシュッと魔力網がミナイサへ放たれる。
「ミナイサ!」
「いやっ」
後見人が庇うようにミナイサへ覆い被さる。
が、二人に当たることなくスルリと、網は人体を抜ける。
「ふふ。コレス。この人達、自分たちが攻撃されるって思ってる」
つい、吹き出した。
笑うエレラに、笑っていることを嬉しそうに見遣る男。
自分がやったことで、笑みを浮かべさせたことに満足そう。
「お腹痛い」
笑いすぎてお腹が痛くなる。
「お前を楽しませられたのなら、愛し子も悪くなかったな」
どうやら、妖精を捕らえたらしい男が手に網を持っている。
前を見るとまだ唖然としている二人。
「ミナイサ、大丈夫ですか?」
ミナイサのことを心配する男は、なんというか健気というよりなにか言われていて、それに従っているという香りが漂う。
「後見人って、最悪な職業なのはわかる」
「ああ……厄介な愛し子に張り付いて、機嫌を取るという役割ってことだな」
さっき腕を引っかかられたのに。
それでも心配しなきゃ、いや、心配するフリをしないといけない。




