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05考える時間よね

コレスは僅かに額へ汗を滲ませ現在焦っていた。


「どうしたら挽回出来る」


慎重に問うてきたことは評価されよう。


「コレスさん、貴方はどうしたら良いと思う?」


意地悪な空気を出しながら質問する。

しかし、コレスはなにか良い策を思い付けないのか黙ったまま深い思考に陥っているらしい。

全く反応しなくなった。


「決まりました?」


聞けばコレスは首を振り決まっていないことを示す。


「考える時間がいる」


「ではどうぞ」


今すぐあれこれと要求しても納得されないのは目に見えているのでじっくり検討してくれと頷く。

帰るかと思えばまだ居座る雰囲気を醸し出している。

彼はこちらを見て、ソッと身を乗り出させ自然に顔を寄せてきた。


「エレラ」


掠れた耳に残る声で囁かれる。

思わず固まれば、その隙にふわりと口づけを受けていた。

そのソフトなものに拒むことも吹っ飛んだ。


「あ」


テーブル越しで油断に油断を重ねていた。

不意打ちにも思えるそれに唖然としていればコレスはいつの間にか横に居て覆い被さるような体勢でまた唇を重ねてくる。


「ん……」


肩に手をついて離れようとするがゆるりと顎を滑る手先に意識を取られる。

知らずのうちにうっとりさせられていた。

また名前を囁かれてまるでそういった魔法のように動けなくなる。

暖かな木綿みたいだ。

上手く動けない。


「おれから離れるな」


合間に嘆願される。

しかし、その穏やかな声とは違いキスは。

カタ、と音がしてグラスが当たる。

角度を変えては求めるように彼は気配をぴたりと寄せてきた。

なんだか、こんな風に扱われるとどうにも調子が狂う。


拒めないのは何故だろうと考える。

コレスは今までどんな態度で接してきたか思い出せば、常に家では手元に居た。

それなりに扱っていたから?

今みたいに物のように扱われることがなかったな。

淡い音がする中、冷静な部分があり、恥ずかしく羞恥心もある自分が居る。


「私のことは女避けだって言った癖に」


「言ったか?思ってもない」


シレッと言われるのが腹立つ。

まだ許してないというのに、呑まれそうになる。


「愛してないのに」


「言わなくとも態度で分かってるだろ」


ニヤリと笑う彼はエレラを抱き寄せて額に額を触させた。




コレスとの冷戦は今だ続いていた。

まだ旅行先だ。

そのホテルにて何故か、冒険者協会の人間が来ていた。

なぜっていうのは知っているけど、来るのが早い。


どうして来たのかと言えばコレスとの関係を悪化させているから仲介に来たのだとか。

やっぱりコレスの方に味方しにきたんだよね。


分かっていたとはいえ、違う視点からみれば身内っていうのは枷にも感じる。

仲介とか言うけど、大体冒険者ではない方に和解をしてもらう。


「ですから、どうかコレスさんと仲直りしてくださいませんか?」


原因を軽く聞いていたくせに、言うことはそれなのか。

イライラした。

コレスが無神経なことを言うよりも遥かに。


「お断りします」


うふふ、と躱す為に笑う。

笑えば大抵のことは避けられるという偏見。

しかし、カウンセラーと名乗る女も手強い。


「原因はすれ違いなのですよね」


「すれ違いなら妻の悪口を人に言いふらすのですか?すれ違いの意味勉強してきましたか?」


お互いを誤解しているという意味だと思っていたが彼女にとってはどうやら違うらしい。

素晴らしいお花畑。

いや、目先の利益に目が眩んだというものか。

冷ややかに対応する。


「貴方に夫は居ますか」


カウンセラーに聞くと勿論と言われる。

やはり経験者だから担当にされたのだろう。

でも、冒険者が皆優しくて便りになるなんて幻想の見すぎ。


「では、貴方の夫に貴方の悪口を言いに行きますね。一度ではなく何度も何度も。そして、貴方の夫がニコニコ聞いていられるのなら考えます」


そう宣言すると女の頬がぴくりと動く。

仕事とプラベートは別とか言い出しそうな自信家だこと。


「貴方はすれ違いと言いますけど、私は例えすれ違いだとしても私のことをあれこれ吹き込む男となんて居たくないのです」


「男はそう言いながらも照れてるんですよ」


「照れているならばなにを言っても許されると?」


ふざけた言い分だ。

この人はこの仕事に向いてないように思えるのだが。


「カウンセラーではなく、弁護士みたいですね貴方」


「違います」


「まるで私に黙ってあの人に、コレスに従い続けろと言っているように聞こえます。別に良いですよ。代わりに貴方達の悪口をコレスさんに言いますから。貴方の妻で居続けろと強要されたと。だって悪口は立派なすれ違いなんですよね?」


夫婦の間で交わされるやりとりは、ただの痴話喧嘩か会話なのでしょ?


ほほ、と笑って宣言してやると高ランカーに睨まれるというキツい状況を思い浮かべたのか、目に怯えが走る。

やっと自分が言った言葉を自覚したわけね。


つくづく、この仕事が向いていないのではと憐れむ。

夫婦に挟まれて可哀想だと思うけどそれだけ。

頼んでもないのに、のこのこと間に割って入ってきた末路としては優しい方だろう。

悔やむなら妻、の立ち位置という一般人を丸め込めると油断していた自身に向けてほしい。

女、妻、身内。

その肩書きに甘えて示談に持ち込もうという甘すぎる判断。


そして、こそこそとした足取りのその人は今日のところはと、一言添えて隠れるように帰っていく。

この様子ではもう来ないか、他の者を寄越すかもしれない。


観察がてら、そう予測して帰っていくのを見送るとお茶を入れて、自身の疲れを労る。

他人の世話もしてやらないといけないこの身が可哀想だ。


カウンセラーなので一応対応したが、次からはお引き取り願おう。


客人が帰ってから三時間、仮眠を取った。

寝るのはとても有意義だ。

頭がすっきりするし、なによりいざなにかあっても対応できる。


寝た分は動けるから、モンスターの出るこういった世界ではわりと判断力が命を左右してしまう。

冒険者にこうやって、他者の命を丸投げしているからカウンセラーも冒険者のギルドも、主に向こうに味方するという問題が起こる。


本当は預けたいなんて思ってないが、身体能力がないので頼るしかない。

傲慢な冒険者も珍しくないので、向こうも苦労しているが。

主婦を蔑ろにする理由としてはとても弱いけれど。


主婦だってその冒険者を支えているし、尽力している。


それを冒険者のところは軽く見ているような気がしたぞ。

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