49昔話と算数
滞在する時の自分の決めたことを遂行するために、水筒をせっせと作る。
コレスも傍で竹を切っている。
「昔話に出てきそうなことしてるね、私達」
「どこら辺のことを言ってる」
「今。竹で水筒作製してるところ」
コレスはうん、と頷く。
「共同作業はしていると癖になる」
会話が噛み合わない、なぜだろう。
「昔話とはなんのことだか、聞いていいか」
「私の世界では、想像で話を作るのが大昔から流行ってたんだけど」
「はやる?」
「流行?皆し始めること?」
みんながこぞって買い出すことだと四苦八苦しつつ、交えて説明。
「例えば、悪人が退治されるとか、よくあるし、使われる題材かな」
異世界言語や異世界について聞かれるので、ついつい語りたくなる。
「悪人がやられる話は酒場でも受けがいい」
「酒場のつまみとは、読者層が天と地ほどあるから」
「ということは、対象は赤ん坊か」
「うん。そこらへんの年齢」
「童話、昔話。子供に言い聞かせるんだな。悪いことといいことの区別をつけさせるためか?なかなか悪くない教育の仕方だな」
こちらの教育は読み書きだったり、歌だったり、バラバラ。
学校なんてのも通うのは小さい時の手習レベル。
そこに高等教育なんてものはない。
文字が読めて、書けて、計算が少しできる程度に学ばせて終わり。
実に簡単。
次にもっと学びたいのなら、自習してねという放任制だ。
街ならばいくつか、その後を学べる塾のようなものはあるが、そういうのはお金が溜まってからということになる。
大人になってから。
気にせずに過ごす人の方が圧倒的に多い。
なにも学ばせてもらえない異世界もあると読んだことがあるから、この世界はまだ学習をさせてくれる分、まあまあな異世界。
エレラからすれば、ちょっとどころでないほど物足りない。
「昔話のこともいいけど、算数しない?」
この世界は幸運なのか、この世で倒立されているのか数字に関して異世界と同じ。
計算方式を教えてみたくなった。
エレラはそれを使う機会がなくて、消化不良だということもある。
隣に、教えがいのある男がいることに気付いた。
「算数」
「計算。数字。数えること」
「ああ……得意ではないが」
得意じゃないというが、頭がいいので計算自体は頭でやってすぐに弾き出している人だ。
「教えるから教えるから」
と、珍しく前向きな姿勢であるこちらにコレスは頷く。
あまり教えてもらっても、うまくできないかもしれないぞと保険をかけてくるが、こちらの方法を使うのならばそんな保険は不必要。
「じゃあ、まずは」
一つ目を教えると彼はあっという間に吸収。
みるみるうちに、教えたことを応用するまでになる。
天才なのかな。
Sランクにいる時点で天賦の才はある。
それに加えて学者的な才能もあるので、まさに文武両道。
「文武両道っていうのか?おれみたいなやつのことを」
「うん。そう。才能がある人の褒め言葉」
「……そうか」
嬉しいのか、目元を優しく和らげる。
褒めたというより、ただの事実を告げただけなんだけど余程嬉しそうだ。
特になにか言う真似はなかった。
嬉しそうなのは見ていて気分は結構いい。
顔がいいので余計に鑑賞するにはよすぎる。
数字、算数を吸収していき、メキメキ学力を身につけていくのだろうと予感させてくれるのは、爽快感があった。
コレスはこちらを見ながら教えられる時にエレラをジッと見つめる。
「教えてくれる時は、距離が近くても怒られないからずっとしてくれ」
耳元でそっと囁かれて、耳をパーン!と手ですぐさま塞ぐ。
相手の良い声が声優並みなので、うっかりそれで入れられると困る。
「勉強に集中して!」
紙をぐいっと彼の方へ寄せ、注意した。




