42個人温泉がない。魔力入りは王族が独占状態
それよりも何よりも、住むところや温泉が優先なので、今日のところは忘れて欲しいと頼む。
本当に時間が勿体なさすぎる。
調書も聞き取りもどうせされるだろうから、その時に何か言えばいいと告げる。
彼はやっぱり、後ろ髪を引かれるのかもう少し考えたいと言う。
余程、積み重なるお邪魔行為が許せないらしく。
そこはご勝手にと、突き放す。
本当に温泉に早く入りたい。
早くここを通りたい。
エレラはコレスと共に早く、不動産屋に行って店を買いたい。
こんなところに居ても、何もいい事は無いから、と馬車を動かすように伝える。
兵士らも汗を大量に流しながら、ぺこぺこと頭を上下させる。
あまりやりすぎると逆効果というか、あんまり敬うとそれはそれで怒りを向けてくるだろうから、やめておいたほうがいいけど。
結局、他人事なのでちらりともエレラは見なかった。
中に入ると馬車を預ける。
「不動産屋はどこだろう」
コレスは不貞腐された顔をちょっとだけこちらに向けて、慰めて欲しいアピールをしてくる。
もしかして、怒っている顔をしていたのはそれが目的なの?
そっちの方がどうかと思うぞとなる。
呆れる。
それよりも、やることがあっただろうしと少しだけ、ハラハラしたのに。
頭を叩いてもいいかな。
殴っても許されるような気がする。
そんなことよりもまずは土地だ。
エレラは何か、高いものを望んでいるわけじゃない。
というわけで、コレスの慰めて欲しい瞳を無視して、事を進める。
いい加減、時間が経ってキリがない。
不動産を見つけると、一目散に入っていく。
「すみません」
いい土地はあるだろうかと、片っ端から資料を求める。
「いらっしゃいませ。お客様」
彼の資産の限度額を聞いて、目の色を変える不動産屋の人。
「では、こちらはいかがですか」
露骨でも、異世界だし。
こちらは買いに来ているからいいんだけど。
簡単に帰ったりはしないので、相手も次々に良いところを出してくる。
コレスは、ここなんていいんじゃないか、と勧めてくる。
見てみると温泉が小さい。
「ちっさ。これはない」
申し訳程度にあるくらい。
「小さい?そういえばそうかもしれないな」
もっとデカい温泉は無いのかと聞くと、これが一番デカいと言われてショックを受ける。
公衆浴場があると言われたが、自分は個人の温泉が欲しい。
どうすればいいんだろうか、と頭を抱える。
なんで暑い国なのに、火山もあるのに個人のプライベート温泉がないのだろうと、疑う。
不動産屋の人も、ここまで温泉を求める客に首を捻って驚いている。
本当にないのかと聞く。
プライベート温泉を持つのは、王家ぐらいだと言われてがっかりする。
こうなったら、温泉を引き当てようとコレスに頼む。
それに対して夫は待ってましたという顔してこちらを見る。
期待していたような顔で、ニッと笑う。
国の成り立ち的に、あちこちに温泉があってもおかしくないと思ったのに。
思い込みで推理して反省する。
確かに期待しすぎは身体に毒だ。
「よし、温泉探しに行くか」
温泉を探すことにして、借りの家を借りることにした。
期待ゼロになったので一番低い値段。
がっかりしてもう、まともな家を探す気になれない。
不動産に勤める男は露骨に気落ちしていたけれど、太い客と知ったのでこちらでも温泉がある土地を探してみますと付け加える。
といっても、できているものという意味であり、掘り出すことではないから望み無し。
期待せずの顔で頷いておいた。
どうせなさそうだし。
エレラは借りた家にのそのそ入って、荷を解く。
「温泉ってのは基本どこに湧いてる?」
「高山のところ付近かな。そういうところから湯を引いて家に流れ込ませるんだよ」
「ということは、公衆浴場はどっかから引いてるんだな」
「そうだね」
「天然じゃないとダメなのか」
「ここにきて、天然じゃないのは悔しい」
「そんなものなのか。夢で見た温泉がいいのなら水源を探すか」
もしなかったら探そうと考えていたので、手間が増えるだけ。
エレラは気を取り直して植物魔法で地熱を探すことにした。
コレスもお湯に魔力が含まれているものがあるかもしれないと探してくれる。
どうやら王族が所有しているのは魔法、魔力のあるお湯らしい。
それって、見つけたら横から取られてしまうのではと不安になったが、法律を読むと金銭の提示がまずなされるらしいと書いていた。
本があったので開いてみた。
ここは今後必要そうなので購入。
部屋で読む。
金銭で買い取らないのならば、あとは本人らの話し合いらしいので、持っていかれることは上っ面的になさそう。
問題は、そうじゃなかった場合。
弁護士が必要かもしれない。
この世界、弁護士なんて貴族の専属であり、結局札束で殴り合う世界みたい。
この国はどうなのだろう。
新聞の古いものやコレスに過去に魔法の温泉を引き当てたものは現在どうなっているのか、そのお湯はどうなっているのかの調査を頼む。




