39卵は異世界では御法度&夢で温泉を見つけに行く
店に売っているものを食べることは流石に自分もやらないので、そこは注意されずとも平気だ。
なのに。
「今日から卵はおれが作る」
と計画がすでに破綻しかけている。
半熟についてのことは彼にはまだ早すぎたらしい。
ミスったなと相手を睨みつけた。
「睨もうと無駄なこと。おれが料理する。触らせないからな」
わかっている。
彼はエレラの胃を守りたいだけなのだ。
悪気はどちらもなく、どちらも悪くない。
冷戦状態が始まったが、夢渡りをするときになって互いに空気が飛散した。
夢渡は、今後の生活水準に必要不可欠なのだ。
生命線であろう。
コレスはエレラの隣に並ぶと手をキュと握る。
握る必要ありますか、と聞くとあると力強く言われるが。
それが本当か確かめる術は誰もないと思われる。
ので、おとなしくされるがままでいるしかない。
夢を見るか見ないかはその日による。
浅い方が夢を見やすい。
エレラでも知ってる知識をコレスに教えると、博識で最高だとダメ押しのお褒めの言葉をいただいた。
目を瞑る。
やがて睡魔が、全身を海の中にいるように浸らせていく。
「は」
息を吸うと視界が白く煙のような不透明さで覆われていた。
ここから夢だぞ、という境界線が存在してないみたい。
歩くことにした。
隣で寝ていたコレスは今、隣にいない。
現代的にいうと、アクセスがまだできていないのかもしれないな。
彼は未だ自分の意識の中にいて、これからこちらへ来るのかもしれない。
そこそこの間エレラの夢を見ていたらしいから、手慣れている筈。
「なんか、薄ら見える」
目を遠くにやるとボヤッとした景色がある。
おかしいな。
夢というのは、こんなにモヤモヤしてない。
二人分の夢渡りをしようとして、なにか負荷をかけてしまっているから、景気が変なのだろうか?
目を細めながらそこへ向かう。
辿り着いてももやついていた。
「……これ、私の夢じゃない」
亀裂が入っていた。
もやついていたのは、向こう側。
この亀裂が、コレスの仕業だとするのならば。
「結構力技で入ってきてる!」
もっと、溶けるように入ってきてるのかと。
煙みたいに。
完全に力技だ。
入ってきてる形跡があるので、もう侵入済みなわけだ。
辺りを見回す。
「コレスゥ」
小さく小声で、か細く。
「悪い。辺りを見ていた」
フツーに真横に立たれていた。
これは身体能力なのか、夢を自由に行き来できているのか。
「私より私の夢歩き慣れてるとか、どうなの?」
「?……どうもしないが。なにか気になるのか」
「いや、別に」
人の家に家主より大きく歩き回る気持ちなんだな、これ。
「さて、夢がなんだか湯煙っぽいけど、どうするの」
「きっと、今日の会話が温泉一色ばかりだったからだな。多分温泉あるぞ」
「ほ、本当!?入りたいなあ!」
周りを見回して探す。
瞬きの間に温泉を見つけた。
目の前にあって、さっきまでなかったのに流石は夢である。
「コレス。これが私の過去の世界の温泉ね」
「これが」
彼は目に焼き付けるように見て行く。
―チャポン
「音も湯加減もいい」
「入るのか。危険じゃねえのか」
思わず口調が強くなる。




