37ヨイショは嬉しい(水筒の話)
違うから否定した。
「どっちでもいい。キスしていいか」
「そのやり取り前回したけど!?」
褒めてから、上げて隙を逃さずのそのスタイル、なんなんだろう。
隙あらばという様子に、妻のこと好きだなこの人、と何目線かわからないけど思った。
「たけのこから竹になるのは時間がかかるから、今回はこの筍から処理しないと」
コレスに切るようという。
消すことはできるけど、せっかく作ったので。
これを鍋で煮ていけばいい。
本来アクを取ったりとしないといけないが、魔法で作っているので食べられる状態だ。
竹になるのは、エレラの創造というものと。
想像の進化が筍に情報として組み込まれているから。
「処理して、どうする」
「食べる」
「花を、食べる?」
「これは花じゃない。食材」
「竹は食えるのか」
「食べれない竹になると食用不可になっちゃって、木材みたいなふうにしか使えなくなる」
「それだけ固くなるんだな」
「そうそう。タケノコの段階でかなり硬いからわかるよね」
「おれでも苦戦するぞ」
「掘られたり切られたりする分には弱いから。折ろうとするとなかなか難しいよ」
タケノコ掘りに昔昔、行った経験がよみがえる。
子供にできる作業じゃなかった。
大人でも大変そうだったから。
思い出を振り返って、コレスを見ると筍を切っていた。
手刀で。
やはりこの男は、忍者の素質が多分に含まれている。
そこは剣とか使って切る場面なのに、手刀を使うところが普通とは違う。
試したかったのかもしれない。
「どう、切れた?」
「切る分には抵抗なくできた。中は柔らかい」
「中身を食べるんだよ。しょーゆにつけたら美味しいけど。ないから違う調味料だな」
豆なんて探しても、醤油は作れる気がしない。
「今晩のおかずか」
「そうなるかな。鍋で煮れば直ぐできるから」
「おれがやる。タケノコのことを知りたい」
「うん。どうぞ」
あとからぽんぽん生やすのだ。
食べることにもいずれ飽きがくると思う。
コレスにどしりとした重さのあるタケノコを渡す。
馬車に再び乗って、出発。
「竹を売るのならタケノコも食材として売ってみたらどうだ」
「ナマモノをかー。ちょっと躊躇する」
「余ったらおれにくれ」
「うん」
引き取ってくれるんならいいや。
焼却でもするのだろうか。
「竹を売って、中に水はあるのか、ないのか?」
「一応入ってるのも売れるけど、面倒だしなくていいかな」
水筒は基本異世界なので袋型だ。
異世界の水筒型なんてない。
出っ張ったフチの部分に、穴を空けてロープかヒモを通せば体に引っ掛けられる。
「うち妻は天才発明家だな」
「異世界の水筒の話だから」
無駄に心地よくなるヨイショはやめてほしい。