35寝言じゃなくて夢に入ってたらしい
それも多分寝言で言ったんだな。
微かに意味が違うのに、現代的な言い回しなので合っている。
「もしかしてだけど、寝言じゃなくてさあ、私の夢覗いてたりする?」
前の街でも滅多に人前に晒さなかったことを思い出す。
妻の顔を不特定多数に見られるのをヤケに嫌がる人なのだ。
「……そんなことは、ないな」
「うわあ、今の反応嘘じゃん」
「嘘じゃない」
今度はキリッとした顔で答える。
いや、寝言でネットワークという単語を知っただけでは、使いこなせない高度な言い回しをしてましたけど?
ネットワーク、ネットワーク、とかうにゃうにゃ呟いたくらいでネットワークとはなんぞや?になる。
それなのに、妖精間のネットワークについて言及。
おかしい。
独自のルートや、情報のやり取りを築いている意味で使われる言葉。
やはり、夢をのぞいたな。
じっとりした目で見ると彼は顔を背けて、こちらにまた戻す。
「お前の寝言や人格が気になって仕方なかった。起きて聞いてもなんのことかわからなかったようで、首を傾げられてしまったから、探るためには夢に入るしかなかった」
「ああ。まあ、そうなるか」
改めて、以前の記憶なしの時のことを言われると、確かめずにはいられないことしかしてない。
エレラも相手に同じ現象が起きたら、なにが起きているのか知りたくてなんとか夢に入ろうとするかも。
いや、する。
ちょっぴり申し訳ない体質になっていたよう。
コレスじゃなかったら破局ものだった。
夜中に起きた女が人格を変えて何事かと言い出したら、怖いよ。
「コレス、ほんとなんで私と結婚したの」
「愛してたし愛してるからそんな態度で別れる理由がない。もっと変なやつは世の中にいる。お前みたいに夢遊状態じゃないのにな」
「あー、そーですかい」
褒められているのか、微妙に嫌だ。
変人コレクションの横に並べられた時に、それほどでもない扱いされて、気持ちいいとは、ならない。
嬉しくないし、返答に困ってこの話題はやめておこうと、夢の話に戻す。
「夢、見たんならボールもあんなに早くわかったの?」
ボウリングをするときのボール製作は、ゴールが見えているような真っ直ぐさが窺えた。
「ああ。その日の夢の中でお前が立ってる横にたくさんのボールがあって、それを見た。穴は三つも空いてなかった」
よく聞いてみるとアーモンド型に手を形造るので、ラグビーボールだと知る。
夢なので色んなボールが混じったのだろう。
昔、映画を見た時にその日の夢は、エスカレーターに乗る映画のキャラクターというものを見た。
色んな要素が混ざる、へんてこな内容だった。
「それはラグビー用のボール」「らぐびー」
「そのスポーツは見たことあるけど、ルールは知らなくて教えられない」
浅い知識ゆえ。
偏ってるのだ。
テニスも打ち合うのは知っているけど、バレーも同じく打ち合う程度は知っている。
細かなルールは知らない。
思い出してみるとボウリングなんてもっと知らなかったので今更。
コレスにバドミントンについて語る。
こっちもボールじゃないので、羽付の打つボールについて初めから製作しないといけない。
「夢で見た時にお前とできれば早くやれるようになるかもしれないな」
「そんなうまくいく?夢で物が出せるなんて、ちっちゃい時に何回かやった程度で今じゃできないけど」
そんなことができた時代もあったとさ。
「火の国に着くまでは暇だしな」
火の国というが、ちゃんとした名前はある。
けれど、名前を覚えられないというか、横文字の名前は覚えにくく、二人の間では火の国と呼んでいるだけ。
正式名称があるし、他の国でも火属性の国はいくつかある。
その中で今から行く火の国【ノウベラジュフェ】という国は火山がたくさんあるとのコレスの談なので、今からもう入り放題じゃないかと冒険心が止まらない。
まだ距離はある。




