34火の国へ
火の属性が強い国に移動している一組の夫婦。
火の属性が強いというのは火の妖精がその国を気に入っているとの講義を聞きながら、彼の操縦する馬車の隣に座りながら聞いている妻。
夫は二人きりの状態がとても嬉しいらしく、かなり口数が多い。
話すというより、説明なので話しやすいのかもしれない。
「火の妖精が多いってことは、火の魔法が使いやすいってこと?」
「そういうわけじゃない。妖精に好かれれば威力が多少加算されるかもしれないが、愛し子でもない限り、好かれる可能性はあまりない」
「異世界あるある!知ってるんだけど、その設定」
「異世界ではよくあったのか」
コレスはエレラの異世界の話を完全に信じているし、魂が二つあり、上手く融合しているので信じる理由でもある。
エレラは前世の記憶を持つ異世界人でもあるのだ。
意識だけだけれど。
「物語だから、異世界に妖精がいるってわけじゃない。愛し子の概念も割と近年に作られたものだから、知らない人も多いと思うけどね。妖精じゃなくて人外に好かれる話は、古今東西ではかなり昔からあるっぽいんだけど」
カミカクシとか。
「へえ。面白そうだ。例えばお前が、おれの愛し子を名乗れるってことはありなのか?」
「うーん。コレスはSランカーだからギリ人外枠でいける、かも?」
「くくっ。人外枠だったのか?」
人外枠との言葉がツボに入ったらしく、大笑いし始める。
コレスは、この世界では希少なギルド所属である一番上のライセンスを持つ、最強の一人と数えられている男。
その妻は、元花屋という肩書き以外の特出したなにかがあるわけではなかったが、夫が下手を打ち心を壊しかけたことにより、絶対に出てくることがなかったはずのもう一人の精神が出てきた。
その精神は、寝ている時に出ていたらしいと最近知った。
「コレス、前見て」
「見えてる」
「見てるだけで怖いから、見えてても前見て」
笑ってる間にお腹が震えていて、まともに前方を見てない。
本人的にちゃんとみてるらしいけど、ちゃんと見てくれ。
せめて、自分の前だけは無事辿り着けるような仕草は、してほしい。
「くく、見えてる」
「笑ってもいいから、目ぇ開けて」
「わかってるわかってる。火の国でも雑貨屋をやるのか」
「ううん。ちょっと悩んでる。流石に前の時にドライフラワーは作りすぎて飽き始めてるし」
植物魔法を使えるエレラは植物を再現して作れるので、前の街では雑貨屋で花を売ったりしていた。
注文がたくさんきたので、ずっと制作作業していたのだが。
ちょっと作りすぎた反動で、違うものを作りたくなる。
「あっ」
「ん?」
コレスは、ほんの僅かな呟きでも拾ってくる。
第三者的に見たら、妻を溺愛してるみたいだ。
「竹、竹を生やして売ろうかなぁって思って。火の国っていうけど、地熱タイプなのか火の精霊が集まって気候に影響があるのかわからないけど、竹なら生やせられるかも」
自然から生成されるのではなく、魔力で作られるので本来の知る竹の生育環境じゃなくとも育てられるかも。
生やせればいいので、水分に魔力を混ぜればある程度は、数を確保できるのではないかと。
「水をか?」
「ダメなの?なにか法的に」
「いや」
彼はまた人が押し寄せてくるのではないかと、こちらとズレた検討違いの解釈を投げつけてきて、ずっこけそうになる。
「私の顔特定されるの嫌なの?この世界には私の顔を広める技術なんてないから広まりようがないけど」
「あるかもしれない。妖精ねっとわーくに」
ネットワーク。