30ボウリングのボールに穴を開けたくないらしい
ボウリング制作の次の日。
今は向こうでコレスがボールを作るのに夢中で、珍しく隣にいない。
本気で集中したいとのこと。
こちらはボウリングのルールを思い出している。
実はそんなにしたことない。
人生で二回くらいしかしたことがない。
己が過去住んでいた地域にはボウリングのできる場所がなく、できたところで行く理由もなく、なんとなく付き合いで行ったのが二回。
ただゴロゴロ転がして、わからないままゲームをした経験のみ。
そんなほぼ経験なしな状態でボウリングのことを寝言でなどと、こっちの方がびっくり。
記憶の片隅ですら存在しなかった。
「ボウリングねえ」
思い出しても、なかなか出てこなかった。
ルールなんて見てないし、知らない。
なんちゃってルールにしておくことにした。
二回した程度の遊びのルールを、確認する時はなかったのだ。
それならばまだ、料理のレシピの方を覚えている。
それくらいなんの関係もない名称。
なんだと聞かれて、逆に教えて欲しいと言いたくなったものだ。
エレラはボールをいくつも作る男を横目に、紙に書いたルールをシンプルにまとめてテーブルに置き、ドライフラワーの制作に取り掛かる。
注文は今も継続しているので、作っても作っても在庫は余らない。
気楽に仕事ができるので、店をオープンさせるのはやめている。
こっちの方が客の相手をしなくていいし。
客は、コレスが対応してくれるって頑なに言い張るから任せている。
無理矢理じゃないよ。
それに、エレラは楽しく過ごせてきるから、このままでいいやと思っている。
面倒くさがりなのであった。
それが許されるからぐだっと毎日していた。
今は、ボウリング製作しているので、少しスケジュールが詰まっているけど。
とはいえ、期限が決まってるわけではないので、合間合間に進めればいい。
コレスがやたらハマっているだけだ。
「うまくいかない」
「いかなくていいよ。完璧なボール状は難しいし」
「そういうわけにはいかない。おれの美学がユルサナイ」
「もしかしてそれも寝言?」
「ああ。美学。よくわからないが使いたくなる」
その気持ちは結構わかる。
「で、ボールうまくいかないんなら、まずはやめた方がいいよ。休まないと煮詰まるしね」
もう少しやるとまた向かうに行く。
花を編むエレラは、三日後にボールができたことを伝えられた。
見せてもらったら、哲学的なつるりとしたものが見えて驚く。
「すっご。完全体」
素直にすごい。
褒めたら凄く誇らしげにしていた。
「これで転がせられるな」
「あと、ここに三つの穴を空けて完成」
穴を開けると教えるとショックを受けた顔を浮かべる。
なぜ?
「この完璧な丸いものに穴を……?」
「それがボウリングのボールだから。私が私怨で言ったんじゃなくて、そういう決まりっていうか。決まってるから」
まあまあと落ち着かせる。
「他のボールの穴を開ければ?」
「……そうする」
初めてうまく行ったものを、崩したくなかったらしい。