03予約していた
るんるんと楽しい気分で宿へ行く。予約していたからちゃんと泊まれるようにしている。
バレやしないかって?
ちゃんと偽名を用いているので大丈夫。しかも、コレスでは到底分からない名前だ。
逆立ちしたって理解できないので解読不可。
あと、実力者で世界規模の強さを持つ冒険者は伴侶も対象の保険みたいなシステムに入っている。冒険者をやっている人が優遇されるのでその伴侶は隠れようとしても組織が見つけようとするので不利だ。
冒険者や猛者を組織に居続けさせるため、鎖に繋ぎたいという思惑もある。抹消してもらう予定のシステムなので気にしとかなければ。伴侶に不利とはなんとも許しがたい。鎖になどなるつもりはない。
「ふぃい」
部屋へ入ると噂通りのベッドの寝心地に心が癒される。温泉まであるとか最高。
「お風呂ーお風呂ー」
語尾を伸ばしてお風呂、外へ向かう。この建物内にもあるらしく、まずはそこへ行く。
―キィ
―パタン
今、扉を開けて直ぐ目の前になにか居た。反射的に扉を閉めたものの、そいつは確かに通せんぼしていた。
「もし野郎だったら抹殺してやる」
音符をつけると仕切り直して扉を開けた。居た。が、取り合う理由がないのでそのまま外に出て廊下を渡る。てくてくと歩くと真後ろに気配を感じついてきているを確信した。存在を抹殺しているので良いや。
さっきから「おい」とか「待て」とか言っている人が居るがすべてを無視しているとなにも言わなくなった。そのまま温泉の建物の中に入ると女湯へ行く。
ここまで来たら性別が男はここへ入れない。
入ってきたら捕まる。そこに特別待遇は存在しないのだ。
かぽんと自分で音を再現して岩が突き出た温泉へ入浴。その温かさに変な人のことなど頭から抜け落ちた。
湯から上がり着替えると女湯から廊下に男たちの声が丸聞こえだ。行っちゃだめだ、捕まる、離せ、待ってろ、といった多種な声がする。
そのままなに食わぬ顔で先に居た女性の団体達の後に続き、出た。なにが起きているかなんて、関係ないのだ。
己のためだけに生きると決めた。自身の部屋へ戻り、ダルい身体を眠気と共に沈めた。
ぱちり。起きた。違う温泉も入ろうと軽く用意して鞄を手にかける。
―キィ
―パタン
またなんか居た。人数増えてる。ぞろぞろと、女々しい人達である。が思い直してせかせかと歩くと、一歩踏み出す度に女々しい言い訳をつらつらと並べていく。茶番劇。無視していると羽虫達の音がなくなっていた。
「怒ってる」
怖々と聞こえる声に無視。心の中だけではあるが、怒っているというのもとうに過ぎ去ってるのだと付け加える。
女湯に行くと鬱陶しい集団はついてこれなくなり、一人女湯へ湯に浸かった。湯上がりに肩を緩く解し廊下に出るとまだ居た。
案外彼らも暇なんだな。他人事なことを思い浮かべてさっさと戻る。
彼らのことは温泉街をつけ回した変態集団として報告するとして、部屋へ戻りまた一眠りした。
―コン
かなり奥手なノック音に、勘違いだと切り捨てご飯を食べる。今は夕飯どきだ。ぷりぷりの魚の白身はウマイ。
「話を聞いてくれ」
離婚されかかっている男みたいな台詞だ。白ごはんも食べた。
「手紙と指環を見た。なにかを勘違いしてる」
酒場であんなにべらべら喋っておいてよくその言葉が出せたものだ。
「開けてくれ」
開けたらどうするのだろうか。説き伏せるのか、泣き落としか?
「別れるつもりはない」
世の中には別れなくても終わりの関係などたくさんあるのだ。別れるか否かなど関係ない。
「何か言ってくれ」
せめとの願いが込められたそれにガン無視。白身を飲み込むとお茶を楽しんで寝た。
こんにちわ、朝です。そして、朝風呂に入り部屋に帰ってきたところだ。ぱふんと布団へからだを弾ませると先日の列車での大事件を思い出す。
鳥のようなモンスターに運悪く襲われてしまった。こちらもなにかしらの力を身につけなくてはいけないな。
なんせ、コレスとの生活を止め、冒険に出る予定だからだ。別に冒険者になろうという面倒なことをするわけではない。手のひらを開く。
魔力がじんわりと僅かに手のひらへ集まってくる。前の人生を思い出してからどうやら魔力が活発になり、知り得なかった己の中の魔法の力が更なる段階へワンステップしたようだ。
お店を手伝っていたときは植物系統の魔法を渇望していた。もっと力を欲しいという気持ちもは今も昔も変わらなかったというわけだ。
こそこそと人の話を聞き付けてしまうような身体能力強化の魔法を一番に望んだのであんな会話を聞き取ってしまったのは耳を汚してしまったと後悔している。
敏感に魔力を感じ取れるようにもなっていた。空気中の魔力を取り込めるかも、淡い期待を抱いている。万能ではないが、あって損はしない。
「集中、集中」
目を閉じ淡く漂う魔力を集めるようにイメージする。ちろっと揺れたようだが、吸い込むところには及ばない。




