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29ボウリング

宝石を渡してきた貴婦人の事件が収束してすぐ後のこと。


コレスがボウリングってなんだと聞いてきた。


サクラのブローチを胸元に付けていたエレラは、ハテナマークを頭上に掲げる。


これからこのブローチを一人で鑑賞しようと笑みを浮かべていたところで、話しかけられた話題がボウリング。


こっちのセリフにしたい。


なぜボウリングを彼が知っているのか?


「寝言で言ってた。初めて聞く言葉だから異世界の言葉だろ」


嬉しそうに、楽しそうに告げられて、また寝言で言っていたのかと己に叱責をする。


しかし、無意識なので直せないと思う。


「ボウリングっていうのは……筒状のものを用意して。それを並べて転がす遊びかスポーツ」


「すぽーつ」


「スポーツ」


初めて聞くからか、首を傾げる男。


取り敢えず店に行き、いい具合の入れ物を探す。


買い込むと家に帰宅して、彼へこの筒から物を出すように伝える。


それを共にやり、中身をざらざらと出す。


筒を用意できたので、あとはボールか。


コレスにボールの丸い形を伝えて、転がることを前提で作れるかと聞く。


「こうか」


「うん。近い」


試行錯誤すること三時間、休憩しながら作っていく。


明日に持ち込もうよ、と声をかけると悔しそうに後少しなんだと、やめようとしない。


「眠ろう」


そういうものじゃない。


熱血に注ぐことではないのだ。


「お前は寝ていろ」


「えーっ」


そこまで溜め込ませるつもりはなかったんだけど。


言わなきゃよかったかもね。


ここまで作るのに拘るとは。


ボールはボール。


明日でも時間はたっぷりある。


わざわざ寝る時間をずらしてまでとは、思えない。


難しい顔を思わず浮かべてしまう。


こういうの、よくない。


「いいから、寝て」


「だから、先に」


「寝ないのなら今からは走りに外出る。ギルドにも連日顔出すよ」


ムッとして、寝るかもしれないことを何個も積み重ねる。


それは勘弁してくれと頼まれて、漸く彼はボールから意識を離す。


手を引いて寝室にまで誘導する。


手を引く間、彼がずっと手を凝視していたので居た堪れなくなりそう。


いや、好きでやってないから。


単に寝ない人がいたら、寝にくいというだけ。


朝起きてまだ寝てませんでしたも、あまり気分が良くない。


同居人として、そこら辺は足並みを揃えてもらいたい。


一人が生活をズラすと、こっちも違和感で背中がムズムズする。


コレスはキュッと手を握りしめて離さない。


いい加減にしないと、意識を切り替えるぞ。


エレラはブンッと手を上下に振る。


ベリッと離れた手を残念そうに見る夫を無視して、自室に向かう。


「おやすみ。寝て」


「ああ。寝る」


彼がベットに横になるのを確認してドアを閉めた。


まるで子守のような気持ちになる。


変なの。


今のってもしかして、彼なりの甘え方だったのだろうか。


もう一人のエレラに頼めば、好きなだけ甘えさせてもらえるんだろうに。


わざわざ、塩対応のこちらに頼むなんて。


想像だけど当たっているかも。


考えるのはもうやめて、こっちも寝るためにベットへ潜り込んだ。


明かりを消して目を閉じた。

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