23他者から見た花占い
「おい、花は買ったか?」
「ああ。勿論」
「うちのかみさんが束で買ってこいって言ってたから買ったぜ」
男達は秘密の会議のように声をひそめて告げ合う。
花占いの花の購入場所を安易に言えば、そこに人が押し寄せ己達の買う分がなくなるからだ。
「花占いっつうのは、何度しても楽しいな」
折角少人数で教え合ったあまり知られてない花屋なのだから、知られないように小声で伝え合う。
そうしなければ、他の花屋のように連日売り切れになりかねない。
Sランク冒険者のコレスが来た時も話題になったり騒然としたものの、花占いを披露されてドライフラワーと呼ばれる見事な造形の花。
それが、箱に敷き詰められている商品を見せられていた時の比ではない。
箱の中身を見せられた時の女達の目の輝き、花占いを見せられた自分たちの衝撃たるや。
「夢中になってやってしまうよ」
ギルドでも情報を集めると花占いやドライフラワーといったものを特許申請したらしいコレス。
諦めの気持ちが湧きかけたが、なぜかそれを無料公開するとのこと。
「え!?無料ですか?有料じゃない?特許申請したら普通……お金取られるんじゃ」
「わかんねぇわ」
最強格の男の思考はいつもわからない。
わからないなりに、皆は言い合って推測を出していくことしかできない。
そこには妻の存在があるのだかが、あまり話題にはのぼらない。
紹介しているのがコレス本人なので、影も形もない女性のことなど想像できなかった。
「見てっ、ドライフラワーってものが届いたわ」
女同士も花占いと並行してコレスが発注するために、置いておいた発注書に記載し、ドライフラワーを手に入れていた。
花占いは花を買ったり積んだりすればいい。
ついでとばかりにドライフラワーが一輪ついていて、花占い用だとサービスでつけられていたことに凄く驚く購入者達。
「え?一輪ついてきたの?どうして?」
「さぁ?」
発案者の店からのお礼品ということはわかっていたが、サービスの概念が根付いていないからこその衝撃は強い。
嬉しさと、購入したからくれたという、購買意欲をどんと刺激されてしまう。
優越感をもってして自慢する購入者。
「それにしても、このドライフラワーのお花とても綺麗。説明書というものには、半年以上枯れないって書かれてるの」
「半年も?嘘よね?お花なんて一週間もしたら枯れちゃうもの」
「そうよねえ」
購入者が本気と取らずに部屋に飾って一年を越しても枯れずにいるドライフラワーに腰を抜かす話も時間がこれば広まっていく。
「花占いした?」
「したした!どう?」
「嫌いばっかり出ちゃう」
「えーっ、それは選ばないからよ。ほら、この数の花びらなら好きの出る方が多いのよ」
「あら、それサービスでついてくる花じゃない」
エレラの雑貨屋の花が手に握られている。
「一輪残してたから、今やってあげるわ」
自慢げに花を見せて、花びらをちぎってみせる女子。
その光景は街のあちこちで見られた。
今や、エレラとコレスの花を知らない者はいない。
「このサービスでついてくる花、もっと欲しいわあ」
「ドライフラワーの中の花……使ってもいいわよね」
「説明書にも書いてたわ」
「えっ、もう?耳が早いのね、Sランクの人って」
ドライフラワーは兎に角、生産者はコレスだと思われていた。
それはコレスが妻の存在を匂わせないように、仕組んだもの。
心理を利用した隠れ蓑となっていた。
エレラも生産者や発案者の有無などを気にしないタチなので、コレスは隠し切っている。
「おーい、Sランクの男が受注書を置いていったぞ」
夫が妻に向けて叫ぶ。
あのうっとりする、ドライフラワーの箱詰めをまた買いたいと何度も言っていたから急いでくれたのだ。
「書かなくちゃ!」
女性達はギルドに殺到。
ギルドも併設してカウンターに人が集まりなにかと依頼をしていったりと集客効果が出ていて、ホクホクだった。
自動販売と呼ばれる方法も無事特許として登録されて、無料公開されたものの、その複雑さに使えるものは未だSランクの男のみとなっている。
流行が街に広がる中、商人や販売を糧とする者達が他の街で知ったと発注してほしがった。
しかし、遠いので無理だと断られているので、益々この街でのドライフラワーや花占いの価値が日々膨れ上がる。
ドライフラワーを運べばいいのだと大量に発注しようとするが、それも断られている。
「転売しようとしているのはてめぇか?」
商人は殺気を受けながら、受け答えもまともにできず震えるしかなかった。
「てっ……て……転売とは?」
なんとか紡げられた言葉。
それに対するコレスの言葉には澱みがなかった。
「商品を購入して、さらに高値で売る行為だ」
「そ、それはっ。私はそんなことはしませんっ」
「そんな言葉だけの保証なんて、ゴミクズ以下だろ」
いとも容易く切り捨てられる信用の文字。
それに関して商人は、絶対にしないと誇りを持って言える。
「そ、そんなことしませんっ」
「今は心と懐が豊かだから言えるんであって、失われたらそうも言ってらんねぇのが世の中なんだがな」
商人もその心の移り気には何も言えなかった。
生活できなくなれば誰だって、穴に入り込んでしまう。
「転売は許さん。三つ、ドライフラワーを売ってやる。ただし、お前の全てを把握しておく。居場所もな」
彼から睨まれればタダでは済まない。
この男は国きってのSランク。
国内に各国三人から五人いると言われるうちの、一人。
そんな相手に虚偽も逃げ切ることも不可能だ。
ギルドに手配をされてもおしまい。
ズルも小手先の詐欺もしてはいけない。
商人はごくりと唾を飲み込んで頷く。
「聞かれても作り手について答えるな。守秘義務だ」
「しゅひぎむ???」
守秘義務の概念は、互いによくわからないまま使われることになった。