17見張りと漢字となでしこ
また家を見張るために近くに潜んでいるらしい。
(はぁ、気持ち悪い)
どういう神経をしていたら、赤の他人の家を監視させられるのか。
到底理解できない。
「やっぱり排除するか」
理解したくない。
顔にまた出ていたらしく聞かれる。
「いい、いい。構わない」
それに対して首を振る。
まだ泳がせておき、一気に刈り取りたい。
そうすれば二度と会わなくて済む。
彼からはそうか、と残念そうに言われる。
(私だってぶちのめしたい)
同じ気持ち。
本当は今すぐにでもボコボコにしたい。
男は窓の外を見つつ、エレラになにかする予定があるのかと聞かれる。
聞かれたものの、デザインを描いてもらったから満足だ。
他にやることはドライフラワーを店内に飾るくらいかな。
あとはこの人に現代知識を教えるくらい。
そうだ、外にまともに行けないのならばこういうときの時間を今、使えばいいのだ。
エレラはコレスに現代のことについて話すことにした。
そうすれば彼も魔法や力を強くできるので、win winである。
相互利益たっぷり。
エレラにもいいこと尽くめ。
ということで、現代の知識での授業をすることになった。
偉そうに言えないぐらい、浅い知識になるけどね。
夫は興味深そうにこちらを見る。
あなたの魔法が、もっと強くなるかもしれないと伝えると嬉しそうに、ニヤリと笑う。
ちょっと悪人顔っぽい。
迫力があるから仕方ないか。
エレラは夫の顔を見ながら感慨深く感じたが、何も言わない。
この顔に惚れて結婚したから、何も言えないと言った方が正しいから。
どんなことを知りたいかと、取り敢えず聞くことに。
細かくカテゴリさえ決まってないと、どれを教えればいいのか迷う。
「お前のところの桜について知りたい」
「魔法の話じゃないけど」
「その次の話題でいい。先に桜だ」
「わかった……桜はこう書くの」
と請われたので紙にサクラを、カタカナで書いたり漢字で書いてみた。
漢字を書くと懐かしさに襲われる。
絵よりも文字の方が身近で、故郷で知らない人がいないほどの、当たり前の花。
次は桜に関係する和の歌の方。
歌詞に頻繁に使われる。
歌ってくれと望まれたものの、気恥ずかしいので首を振る。
コレスは少し落ち込んだ顔で機会があれば、鼻歌でもいいと保留にした。
そんなに落ち込まなくても。
(私の感覚とは違って。この人は妻を愛してるから、許容範囲強すぎるんだよね)
落ち込んだ理由を浅く察したエレラは、それでも親しくあろうとも鼻歌でも歌でも誰かの前で歌える気はしない。
諦めてほしい。
彼の方を見て、内心言った。
そして、さくらについて根掘り聞かれたので色はピンクと答えた。
「ピンクって何色だ」
「赤を薄くした色」
(ピンクよりも原色を多く使うから表現色が少ないんだ?)
魔法を使って花に色をつけてピンク、薄い桃色、なでしこ色にしたものを出現させる。
「初めて見る色合いだ」
「この世界には品種改良とかまだないから。あと、高度の高い山なんか。花よりも薬草が幅きかせてるからね」
「この色合いは、女に人気になりそうだ」
「美的センスとんがってる……確かに青より赤の方が人気はあるけど」
現代の感覚を持たないのに見抜くなんて、やっぱり商人の嗅覚まで持ち得ているらしい。
こういうのは、養われて開花する人の方が多いのかなというイメージが、強かったのに。
自分が異世界人だったらという想像をしても、この人と同じことを言える自信が全くない。
同じように、原色を使って生活していただろう。
周りと同じことをして生きていたと断言できる。
現代で生きていても電子機器などを開発しようとか、これは画期的だなんて感じなかったし。
「もらっていいか?」
桃色、サクラ色の花を欲しがったコレスに渡す。
「どうぞ。サクラはデカ過ぎていくら私の花の魔法でも再現できない。花を咲かせる木なんてそもそも見たことないしねえ」
土地の成り立ちや、形態が違うからかもしれない。




