16桜とデザイン
彼はこちらの要望に応えてくれた。
少し大きめな声で、妻らしき人の名前を向こうの方へ投げかける。
「はいはい。少し待ってくださいな」
壁とドアがそこにあり、ドアを開けて上品さと優しさを金揃えた笑みを携えた女性が出てくる。
「なんでしょうか」
「聞きたいのですが。これはあなたがデザイン者と言うのは本当ですか」
彼女に質問する。
「ここにあるものを全てデザインしたのは、私です」
その質問に快く答えてくれた彼女。
デザインセンスがかなり良い。
「相談したいデザインがあるんですが」
この店なら、安心してデザインを相談できるかもしれない。
「まぁそうですか……私でよければご相談に乗ります」
「ありがとうございます」
「自作デザインを作りたかったのか」
コレスが問いかけてくる。
それに対して頷く。
「ほら、この世界のデザインで私の好みじゃないし」
「だから、あの老婦人から渡された宝石が気に入らなかったんだな」
「あれは見知らぬ他人から渡されたものだから、つける気が起きなかっただけです」
半目になりながら、デス口調で抗議する。
他人の老婦人どころか、どこから渡った宝石かもわからないものつける勇気は無い。
それを気にする方が、彼はいいと思う。
リスク回避が全くなってないし。
疑えばいいのに、実力者ゆえに危機感が鈍くなっているのだろうなと思う。
エレラはコレスに何度か説明するが、やはりピンとしてない。
こちらのためにも少しくらい、あの老女を疑ったりしてほしい。
早速、店主の妻と共にデザインを書き起こしてもらう。
最初はいつもの様子のニコニコした感じがあったが、途中から目つきが変わった。
「これは。革命が起こりますわ」
コレスは己の妻をずっと見ていて、店主から椅子を進められていた。
全く目を離さないのは、いつものことなので、エレラは慣れ始めていた。
「いいの?あなたの恋人さんが見ているけれど」
「あの人、実は旦那なんです」
「あらそうなの?ふふっ。熱い視線ね」
新婚なのかしら、と問われてそうですねと笑う。
世間の渡り方。
店主たちがなにか話し合っている。
彼のことは置いておこう。
デザインができていく。
さくらがモチーフになっている。
さくらはこの世界に存在しているだろうかと考えた。
さくらを探しに行くのもアリかも。
デザインができあがると素晴らしいと褒められた。
いや、本当にすごいのはもう一つの世界なので褒められても褒められた気がしない。
でも、相手は本気で言っているのでありがとうと言う。
描き終えて互いに勉強になったと言い合い、お店を出ることにした。
出来上がるのは後日らしいのでその時、再び取りに来ると予約している。
外に出ると彼から教えられた。
「あの男が後ろで見張っている」
彼が隣にピタリとなる。
「尾行は下手くそだ。あいつ、おれ達をいつまで見張る気なんだ」
イラついているらしい男、コレス。
エレラから言わせてもらえば、彼はエレラ自体がこの男の隣から居なくなるまでへばりつく気だと言いたい。
確実に、そうするに決まっている。
街中を歩いているのに、付いてくるなんてどうかしている。
あの桜のデザインを盗まれたくなんてないんだけど。
不安が顔に出ていたのだろう。
彼が肩を抱きしめて「どうした」と聞いてくる。
「あのデザインを、あの人達に見られるかもしれないって思ったら、ちょっと、というか凄く嫌」
デザインを盗まれたりしないかなと思う。
「大丈夫だ。あのデザインには保護魔法をかけておいた」
コレスはなんと、あの老夫婦しか視覚を把握できないようにしてくれたらしい。
「え?まだなにも言ってないのに?」
「おれもあいつらがなにかするかもしれないと思ってるから、お前に関することを全て遮断してる。万が一にも隙はない」
「ありがとう……」
先んじてやってくれていたことは、素直にありがたかった。
礼を言うと、彼は目をしばたかせて首を傾げるとこちらに顔を寄せてきた。
何をしようとしているのか察して、ぐいっと彼の顔を手で押し退ける。
これとそれとでは話は別。
盗まれたり、見られるのは不快だもん。
彼らが何をしたいのか薄ら察しているからこそ、ムカムカする。
街にある我が家に戻る。