15宝石店
そんなつもりでやったんじゃない、とか言い出しそう。
じゃあ、どんなつもりで渡したんだって感じになるけど。
男は宝石を少し、名残惜しそうに取り出す。
「売り払うのはどうだ?」
「ああ、それはいいな。採用だ」
妻に渡さない質の良い宝石が、後ろ髪を引かれる気持ちで待っていたと告白される。
別に自分は嬉しいとも羨ましいとも思わない。
デザインも見たような、ありきたりさだし。
この世界では、珍しいのかもしれないけど。
成金っぽさはなくて、古めかしさがある分、嫌な予感が蓄積するのである。
とっても、嫌な予感が大当たりしたのはさらなる二日後。
いつまで経っても店をオープンさせられないじゃないかと、苛つく日々。
モヤついているのに、呑気にお店を開けるわけがない。
夫でありながも冒険者である男に、頼み込む前に先にこちらを見る。
心得ていると頷く。
どうするのだろうか。
まだなにも言ってないけど。
「宝石は?」
「売った」
「どこで?いくら?」
本当に売るか疑わしかったけど、売ったらしい。
意外。
「かなりいい値段で売れた。その金でお前に似合うものを買いに行く。お前も行くぞ。装飾品店に」
(いらないけど、お花の参考にしよう)
自分のセンスは現代風なので、今現在の世の中のデザインを調べるのもありだろう。
彼と共に宝飾品の店に向かうことにしたのだった。
道すがら、録音についての魔法作成を相談。
自分も使いたいけど、魔法の原理は専門すぎてなかなかこの頭では、組み立てるのは無理。
となれば、隣に作れそうな男がいるから、作るのを頼まないわけがないよね。
BGMを店内に流す夢くらいは叶えたい。
ゆくゆくは、自分の声が他人の声かは知らないが、歌を流して気を引いてしまい店に居なくても売れてくれればいい。
頑張らなくても大丈夫を目指す。
因みに街中に行く時は徒歩だ。
コレスがなにやら瞬足でむかいたがっているが、シートベルトなしではやはり嫌だ。
景色が高速で進んだり、髪と顔に風圧が当たる感覚は今思い出しても怖すぎる。
彼は長年で慣れているけれどこっちは慣れてないし、やったこともない。
(あ、あそこか)
見えてきた店の看板。
富裕層御用達だからか、煌びやかで建物がデカい。
儲かってます!を宣伝してる。
中に入ると、店員の上から下までの舐めるような探る視線に不快指数が、爆上がり。
彼に店を変えようと提案する。
「ここが一番の店らしいぞ」
「店員の質は低いから別のところ行こう」
小声で伝える。
「じゃあもう一つのところだな」
いらっしゃいませがないのは異世界だからで許せるけど、やはりこの視線は嫌だ。
宝石を購入したとして、宝石を見るたびに、そのことを思い出してしまう羽目になるから。
不快で目を細めて、彼の腕を引く。
さっさと外に出た。
手を離そうとするが、彼が腰をゆるりと支えるように巻きつける。
「え、え、なに」
「お前から触れてくれたから、嬉しさでまだ離れたくない」
などと口説いてくる。
夫婦だし口説かれても変じゃないけど、今?
コレスは絶妙な力加減で体に巻きつけているので、全く離れない。
まるで強力な接着剤みたいだ。
粘着質。
されたまままっすぐ歩く。
歩いて行くともう一つの宝石店へ着いた。
そこはこじんまりとしているが、温かみがある。
好みの店のという感想だった。
外装がいい。
中に入ると、老人が優しそうな顔でいらっしゃいませと言う。
やっぱり言われるよねと一つ前の店のこと思い出す。
手抜きしたなと察した。
店主はそのままこちらを歓迎するように受け入れる。
コレスはガラスケースを見ながら、どれが良いかと聞いてくる。
どれもかわいいなと思った。
デザインは誰がしたんだろうかと気になる。
デザイナーに会ってみたいと、顔を店主に向ける。
「すいません」
デザイナーは誰でしょうかと聞く。
すると、妻がここからここまでを担当しましたと、自慢しそうな空気で紹介されて頷く。
彼女はいますかと、会いたいことを伝える。