112Sランク全員を見に行ったらしいけど気付かれなかったらしい
人が己より強い存在を指標にするのは、異世界でもよく見られることだ。
「当主の印、ないことに気付くかな?」
「遅くなるだろうな。これは強固な金庫にあったから、確認も月に一度やっている程度だった」
「見に行ったのかぁ。どうだった」
確かに言っていても不思議じゃなかった。
「三男を叱りつけていたが、あれはまだ事態を把握してないから軽かった」
王に呼び出されて、平民落ちを言い渡されて漸く後悔を知ることになる、ということか。
「おっそいな。もっとしゃっきり然るべき対応をやるべきなのに。人を脅して、襲わせようとして、私兵を使ったのに見通し甘すぎ」
くどくどと言いたいことを好きただけ垂れ流していると、コレスがうんうんと頷く。
相打ちで「滅ぼしたい」「平民落ちだけじゃ納得できないよな」「わかる」「親バカじゃなくてバカなんだぞ」「可愛い」「そうだな」などなど、似たことを言い合う。
それにエレラも同意だと共感し合うと、話が別のところへ移る。
「Sランクって、会合みたいなことしないの?」
「個々の奴らがそんなつまらない集まりには集まらない」
「誰か企画しそうだけどなぁ?しない?面白そう」
「やっても構わないがほぼ集まらないぞ」
「バトルするっていうエサは?食いつかないかな?」
「するとは思うが……昔、Sランクに要請が来た時に、三人ほど集まったのが最大だろう」
「少ない!」
「どうしたらくるかについては直ぐには言えない。考えたことなんてねえしな」
「なんでも手に入るもんね……その、世話焼きそうなSランクっている?」
「見た感じ、治癒魔法特化でSランクの女が常識的にだった」
「もしかして、全員見に行った?」
コレスから見学しに行きそうだ。
「した。誰も気付かなかったから直ぐに撤収した」
「気付かれたらどうしてたの?」
「話して、世界を壊す思考をしているか確認するつもりだった」
「あー、闇落ちの確認か。それは大切なことだ」
確認しないとエレラも落ち落ち寝ていられまい。
確認されるのならしたいだろう。
で、気付かれなかったのなら彼らはコレスの存在を感知できなかった、ということなのか。
「強さは把握したが、少なくとも気配を消して近付ける。一つおれの弱点がなくなった証になるぞ?」
「なにかあっても、安心だね」
笑みを浮かべたまま答えると彼はこちらを困ったように見ている。
「おれがこんなに強くて嫌にならないか?」
そんなことを聞かれるなんて。
「とんでもない!モンスターがうじゃうじゃいる世界なのに、強ければ強いほど、私は最高に嬉しいだけだけど」
「そうか!」
喜ぶコレスは今更確認してくる。
Sランクと隠さず求婚されたのだ。
Sランクの中で一番強くても弱くても誤差。
元からそういう存在と理解していて、結婚したのだ。
当然、そういう心持ちで生きている。
本当に今更ながら確認されても、逆になんで今更なのかと思うだけ。
「コレスこそ、私弱すぎるけどいいいの」
「弱さなんてカバーできる」
「だよね」
「おまけに日々妖精が増えている。おれだけでも単体で火力が違う」
それは思っていたけど、国を跨いでもついてきてくれるのか疑問が残る。
 




