110文字版&次の国の候補
自由にあちこち行けるのは、旅のよいところだ。
「次はどこの国に行きたい?」
星の国、水の国、木の国、刻の国、などなどまだまだ沢山の国がある。
この世界は前の世界の何倍も土地が広い。
なので、旅をしようとすればかなりの時間が掛かる。
「新居……だろ?」
丹精込めて作った家を手放したくない気持ちはわかるけど。
「じゃあ、次の国に行ったらここに戻ってこようよ」
「……くっ」
「この家を動かせればいいんだけどね」
「それだ」
「動かすのは無理だと思うけど」
「小さくすればいい」
小さくすればいいと、言われても。
「無理じゃない?無理でしょ流石に」
そこまでいくと、なんでもできる。
「やってみせる」
「うーん。そうなんだ」
「小さくしたら持ち運べる」
それが、すごく大変すぎる。
ので、叶わないとしてもいいと適当に応援しておく。
どこの国がいいかと二人で話し合う。
「星の国もいいね。名前からして幻想的」
「どこら辺が幻想的なのかわからない。異世界人の感性か?」
「そうかも?」
星とか、ファンタジーを思わせるものに憧れるのは魔法を使えない人からすると、使いたいという人がほとんどだ。
ないものに憧れが起こるというのは、だれだってそう。
この世界の人だって、モンスターのいない世界線を望むのだ。
コレスは、ジッとこちらを見る。
「いずれお前のいた世界に行きたい。見てみたい」
「この世界に生まれたから、なんらかの繋がりはあるとは思う」
ただ、それがとんでもなく難しく、困難なことだ。
見たこともなければ、感じたこともない異世界。
ここで生まれたからこそ、片鱗さえ感じたことがない。
徹底して隔離している。
「どこをどうしたら行けるのか謎だけどね」
ぽつりと言う。
全然期待せずにエレラは待つ。
自分にできるのはそれくらいだ。
単に一度転生した平凡な己に期待をされても、ね。
「この世界になんで生まれたのかも正直わけがわからない。異世界では異世界に転生するのなんてよくあることだけど、なんで同じ世界に生まれないのか不思議。普通なら元の世界で生まれてるはずだよね?」
「おれも死んだら、この世界に生まれると思っていたが、お前を見てるとお前の世界に生まれる可能性もあるってことだな」
「そうなるね。現代にコレスが記憶を持ち越して生まれたら、生きにくいよ」
「モンスターはいないって言ってたな」
「うん」
頷く。
「行きにくいかもしれないが。慣れていくだろう。夢で見たが、別のやりたいことが見つかればそれにハマるだけだ」
「この世界ではモンスターを狩ることってこと?」
「ああ」
コレスはしっとりと目を見て、こちらもぼんやりとなる。
そうして見ていると、ひらめきが降ってきた。
妖精用の文字盤。
「妖精は見えないし、見えることはなさそうだし、文字盤を作るね」
「いいのか?鬱陶しいぞ」
構わないよと告げる。
あのね、と説明すると彼は顎に手をやった。
「丁度いい木材がある。それを整える」
「お、いいね。正直言われるかと思ってた」
「頑張る」
「頑張らなくても平気だよ。力抜いて。別に商売にすることはないし」
「妖精に売り付ければいい──邪魔だっ」
コレスは手をふりふりして、なにかを振り払おうと動かす。
また妖精が飛び回っているのだろう。
くすくす、と自然に笑みが浮かぶ。
それに、夫は不思議なものを見る顔をして「笑ったのか?」と当たり前のことを聞いてきた。
「笑うよ。人だもん」
「人じゃなくても愛せるぞ」
なんのアピールなのかさっぱり。
別に愛さなくてもいいよと手をふらふらさせる。