107子息を檻の中に&痛みを知れ王よ
なのに、それが堂々と破られるという事件。
当主に知らせたので子息が知らなかったのかも知らないが、親の責任問題になる。
「コレス。あの侯爵子息をさ、トカゲドリのいるあの中に入れておいて」
「ああ。それもいいな」
「ま、待ってくれ!話を聞いてくれ」
王の言葉の途中でコレスは一瞬でいなくなり、またすぐに戻ってきた。
安堵した王の顔を見て、エレラは不快に思った。
安心するのは二人にとって、気分が悪いことなのである。
「放り投げてきた」
さっきからこの人、加害者を庇ってるんだよねとジト目になる。
「うわああああああああ!」
コレスが言い終える次の瞬間、つんざく悲鳴が外から聞こえる。
一部の護衛達が聞こえた方へ行くのが見えた。
「ひ、こ、コレス殿、出してやってはくれないか」
「なぜ?あいつはおれと妻を殺そうとした。お前は自分が殺されそうになっても許すのか?」
「そ、それは……ゆ、ゆるすとも」
王の声は小さかったけど、エレラの怒りを買うには構わない音量だ。
スッと立ったエレラは王へ怨さの声音で問いかける。
「分かりました。今からコレスにあなたの妻へこの毒を届けてもらいますね」
「……へ」
惚けた顔をしても言ったことはなくならない。
「王様は殺されかけても許すんですよね?なら、この毒を王妃に飲ませても許してくれますよね?もし死んでも許してくれるんですから」
「え、あの」
「ほら、コレス。これ王妃様に届けてきて」
コップに入った紫の粒々が入った飲み物を彼へ渡す。
「わかった。確実に飲ませる」
と、彼は出て行こうとした。
「な!ま、まーあ、待ってくれええええええ!!!さっきの言葉は撤回するのでえっ!」
転がるようにコレスを追いかける男は、王の威厳などない。
「え?なんですか?死にかけても私たちは許してあげたんですから!王妃様にも不幸な目に遭ってもらうだけですよ!平気です!王様が私たちの罪を軽くしてくれるんですからぁああ!ねえ??王様?寛大な王様で国民は大喜びですねえ?」
「すまないすまないすまない!何度でも謝る!許すなどと安易に言った!許せない!当然だ!殺されそうになったらどんな者でも怒るし、厳罰を望む!だから、王妃にだけは!」
「え?よく聞こえないですよぉ。さっき王様が人を殺しかけても許すって大々的に認めてくれたので私たちは今後好きにみんなを痛めつけますねって、お許しをいただいたんですよね?」
王は首を捻挫しようと何度も振る。
「違う!間違えた!言い間違えた!許さない!許せない!殺されかけたら私は許せない!あなた達は被害者だ!私たちの方が許されずっ、加害者なのだああああ!!」
最後には彼の声はひび割れ枯れていた。
ふ、と目を緩ませる。
「よかったです。王がまだまともで……」
エレラはコレスへ戻るように伝える。
「いいのか?飲ませてくるぞ」
「もしそんなことがあったら自分でやるよ」
彼を間接的に関わらせることはしない。
「まあ、今回は警告だから」
「ふうん。おれは本気で飲ませに行ったけどな」
「それは健康にいいジュースだから、飲んでも胃が整うだけだよ」
二人のやり取りを見ているしかない王はヨレた服のまま、椅子に座り直す。
「これで、わかってくださいましたよね?殺されかけた人の気持ち」
王はもう言葉を出す気力がなさそうで、こくんと頷く。
「さっきから妙に加害者寄りなの、やめた方がいいですよ?被害者に印象が悪過ぎますから」
エレラは目を細めて、王へアドバイスしておいた。
「しかと、覚えておく」