106護衛は空を舞う。甘やかすから言うことを聞かない
侯爵となれば、一番上から数えた方が近い。
「ここは引いてくれ」
「何かあったらどうするのですか」
「そうなったら、そうだったで仕方ないことと諦める」
「な、な、なんですと!おやめください!王妃様に我々はなんと言えば良いのですかっ?」
「責任を取ったと言えばいい」
やり取りも逆に白々しくなるので、自分たちが見ていない時にこのやりとりをしてほしい。
火の国の住人でもない二人には、なんの関連もないから。
それに、なんだかなぁとしか思えない。
被害者を前にやるやり方じゃないのだ。
これでなにかあってもなくても、エレラ達が悪人ポジションでは?
「そのやりとり……必要じゃないからやめてもらえますか?」
「なんだと!?平民の分際でっ!」
新しく入った護衛なのか、こちらのプロフィールをよく知らないのかもしれない。
もしかしたら、入れ替えでもあったのか。
「やめよ!」
慌てて止める王だけど、コレスの怒りを買うには十二分だった。
「ガフッ」
気付いた時にはこちらにくってかかってきた護衛は、空高く舞い上がっていた。
綺麗に放物線を描き落下していく。
まるで虹のようである。
叫び声が上がるかと思いきや、そうではなかった。
同僚だろう人達が黙り、放物線を描く様を静かに見ている。
というよりも、怖すぎて震えていた。
他人事では無いのだ。
次は自分たちかもしれないと思っても、おかしくない。
Sランクと言う情報は、彼らの中にちゃんとあるみたいだ。
安堵した。
しかし、徹底していなかったことで、今回の吹っ飛びは起こる。
どうして、よりにもよって王の護衛がそれを知らないのかよくわからない。
コレスとエレラは王だけを家に招く。
前回は古い方の家に来たので、今回から新居の方に初訪問となる。
内装は現代風。
それに王は周りを見回して目を向けていた。
余程気になるものが多いのだなと緊張もしなくなったエレラ。
出身国の王でもないし。
この国の評価が底辺を這い始めている。
王はこちらの心情を把握しているのか、すまなそうに俯く。
「うちの護衛がすまない。謝ることしかできないが」
「そろそろ貴族制度をやめたらどうだ」
「そ、それだけはどうか。他のことで償いができないだろうか」
「何度目だ?謝られても迷惑をかけられてこちらもどうすればいい。なぁ」
怒気を相手に撃つので王の顔色が徐々に白くなる。
護衛達がなにか言いたそうに窓の外から見ているが、話に入ってきたら決裂してしまう空気なので易々と入ってはこれないはずだ。
「男爵の時は平民にしたな。侯爵も勿論平民にするってことでいいな。決まりだ、帰っていいぞ」
「ま、待ってくれコレス殿。さすがに侯爵は爵位の降格くらいしかできない」
「?」
コレスは首を傾げる。
王はごくりと喉を鳴らすが、コレスがこういう反応をするのはおそらく、王の思っているようなことではない。
納得してないと思われてると、手に取るようにわかる。
しかし、彼はそのことに首を横に傾けたわけじゃない。
「す、すまぬ二人とも。我が王家の血筋を人民に降りさせるのは難しく」
「なくなるものを下にしてもなくなるぞ?」
「……んっ?」
コレスは男の言葉を遮って、何を言ってるのだこいつはという顔を向けた。
「誰がお前に判断をさせると、いつ言った?お前が降格させたところで本人達はいなくなるんだが」
「な、な、何を言って」
彼は口をはくはく、させる。
今彼の恐怖は今までの比ではないものになっているだろうね。
「どれだけお前がなにを相手にしようと、こちらはもう査定を済ませている。一族ごと消えてもらう」
「ななな、なっ、そ、そんなバカなことがっ」
「お前がそういうふうに貴族達をこれでもかと甘やかすから、お前の密令を軽く扱ったり無視したりするんじゃないか?」
「う」
王は密かに、トラブル回避のためにここへ行くな、あそこへ行くな、Sランクに関わるなと各貴族の家に封筒を送りつけていた。