101商人ゲラルトナ&現在の元筆頭愛し子
そうして、朝。
起床すると、朝早いのに呼び鈴を鳴らす相手に首を傾げた。
こんなに早いのに誰だろうと起き上がると、玄関へ寄る。
「え、誰?」
玄関からドアを見つめていると、夫が横に並ぶ。
「見覚えはない」
「見えるんだ……」
透明なものなんてないのに、壁越しに見えるらしい。
「インターホン的なものがあったらいいのに。相手がわからないまま出るとか、普通に治安が悪かったら出る気なくなるし」
この国はよい方なので出られるけど、他の場所ならば出る気が失せる。
今はここに来るだろう、謎の誰かのことを気にしておかないとな。
「出る?」
「出ないと誰か不明なままだ」
それもそうかと一度、息を吐いて玄関へ行く。
コレスもぴたりと隣に並び、共に対応する。
「はい。誰ですか」
玄関から扉を潜り、庭に出て近くへ行く。
「おお、朝早くからすみません。私は、前の町にあなた達が売ったドライフラワーを、他の町に下ろす許可をもらった者です」
「ああ、二人ほど居た」
「違反した転売の人はいるの?その中に」
「いない」
ということは、単品で購入した人が横流ししたってことになる。
彼はドライフラワーを売った人で、人なりにここにコレスらが住んでいることを耳に挟み、ここへやってきたらしい。
「えーっと、結局どなたですか?」
にこやかだけど、話が止まらなくなるタイプなのだなと苦笑い。
「すみません。ゲラルトナと申します。コレス夫妻がまた新たなものを売っていると聞き、こちらへ商品を下ろしてもらえないかと思いまして」
コレスが売ることを許可した紙を手に、確認している。
「あ、絵が描いてある」
デフォルメ、単純に書かれているけれど特徴を模しているのでわかりやすい。
これなら、相手を覚えてなくても確認できる。
「合ってる。本人だな」
ゲラルトナはニコニコと上機嫌に頷く。
「ええ!水筒やタケノコを買わせてもらいました」
「買ってくださったのですね」
エレラは購入してくれたと聞き、ありがとうございますと述べる。
「はい。それで、水筒を買わせていただき、他のところで売らせてもらいたいと思いまして」
先ほども聞いた内容に、それならばと彼へ水筒を安く売る。
「わかりました」
広まればその存在を知った人がさらに増えて購入が増えるという広告も兼ねている。
「本当ですか!」
広告料を含ませた金額を差額で抜いていけば安く渡せるのだ。
少し待つように伝えて、彼へ水筒を渡せばお金も払われて彼は帰っていく。
ゲラルトナはスキップしそうな足取りになる。
「賑やかな人だね」
「顧客情報によく喋ると記載してある」
その時、コレスが思ったことが書かれているので、当時も色々話したのだろうね。
「そういえば、愛し子筆頭の子、どうなったんだろ」
「さすがにいなくなったから交代、いや、協会から退会したらしい」
「行動早いね」
見送りをして、家の中へ戻る。
「妖精がいないとなると、ただの一般人だ」
「瘴気を模した魔法をが功をなしたってことか。あれのおかげで妖精は集まってないだろうし」
コレスが愛し子に妖精らが近寄らなくなるものをかけたので、二度とあの愛し子が愛し子として復活することは叶わないと、前に説明されていた。
「あの後、ちょくちょく見に行ったら家の中で不貞腐れて地団駄をやっていた。泣きながら」
「茫然自失って感じ?」
「本人は妖精が見えないから、実感はないな」
「愛し子だったし、トップだったし、お付きもいたのに。いなくなったから、失落が身に染みてはいるでしょ」
妖精よりもお付きがいなくなったことが、わかりやすい。
今後、浮上する芽はなくなったのでホッとしている。
何度言っても聞きやしないあの子は、彼に対して態度を改めることをしなかった。
近寄るな、話しかけるなという簡単なものすら守らなかったのだ。
「追い出されてるのなら、なにか仕事しないの?お金とか溜め込んでるから働かなくても平気だったり?」
内情を知る男は首を横に傾ける。
「それはない。その給料を好きなだけ好きなようにすぐに使っていたらしいから、貯金はないと思っていい」
「そうなんだ……刹那に消費するタイプなんだね」
「いずれ働きに出ないと金は尽きる」
「大人しく今更働けるかな?」
「食い詰めるのは生まれて初めてだから、やるだろ」
今は家の中でボーっとできるけど、貯めてないから外に出ないといけなくなる。




