100よくあるレアな商品を売る商人なんてほぼ居ない
この紙に描かれたものを別の紙に、同じように書いてほしいのだと頼む。
「というわけなの。できるかなぁ」
直ぐじゃなくていいから、やってみて欲しいとペンや色物のペンをいくつか並べる。
「描けるだけ描いてほしい」
などと、声をかける。
「やらせるやつはお前以外なさそうだ」
「やらせないの、なんでなの?なにもやらせないって、暇でしょ」
「妖精がどう思ってるのかなんて、知らない。からだろう」
置いてあったペンがふわっと浮く。
「それもそうだけどさぁ、さすがに無賃はどうなの?愛し子の称号は妖精がいるから貰えてるのに」
「マニュアルにそういうことをやれと書かれてないんだな、きっと。書いてたら言い聞かせてる」
「酷い。私だったら一瞬で離脱するよ」
「妖精は人じゃない。人目線からはひどくても妖精目線じゃなんてことなかったってことだろ」
「なんてことないなら、こんなに集まらないけどね」
空間に目を向けても一つも妖精は目に映らない。
どれほど集まろうと己は見えない体質なのかもしれないなと、区切りはついているから平気だけど。
見えない猫とでも思っておけば、いいだろう。
「ところでさ、ペン浮いてる。なにか描こうとしてるよ。やってくれるっぽい」
「何匹かペンを持ってる。紙にはなにも見えないくらい、集まってきてる」
「興味はあるんだね」
妖精達にいつでも休憩していいよ、やりたくなくなったらやめていいよと声をかける。
「あ、描いてる描いてる!」
最初はぎこちなかったが、何枚目かに少しずつ上手くなっている。
「すごっ、すごーい!」
妖精の複製が可能になった。
これは楽々だ。
頬が上がりっぱなしになる。
褒めて褒めて、褒めまくる。
本当にすごいから、心の底から言っている。
「ねえ、凄いね」
「ああ、凄い。これは学者も大興奮するぞ」
「ここにいたら絶対に研究資料として、書き起こすやつだね」
手を叩いて鼓舞する。
凄いので、さらにボーナスとして食べ物と飲み物を追加する。
こちらが休憩すると必ず用意していたが、今まで出さなかった食べ物も出すことにした。
食べるかわからなかったから出さなかっただけなので、早いか遅いかの違いだけど。
「評判よさそう?」
コレスに妖精達の反応を聞く。
「食いついている。上々だな」
「スパイス買い込んだからね。スパイスが食べられるようで、よかった。私達も食べよう」
夜ご飯に出すと、コレスは手をぱちぱちして、これは前に買い込んでいたナツメグっぽいものかと聞かれる。
「適当に買ったのにな」
そうだよ、と答えるとまた皿をマジマジと見続けて、口に入れる。
「美味しいね。うまくできたから、買っておいてよかった」
一応、買い込んだ店の人がどこに住んでいるか聞いておいたので連絡は取ろうと思えば取れる。
そんなに気に入ったのならと、店主が自分から教えにきたのだ。
異世界では考えられないような緩さだと思ったけど、この世界に生まれてそこそこ経つので、自分だって緩いところはある。
家は教えないけどね。
「他のスパイスがあるんなら、また買いたいな」
「手紙を出してくる」
この国から少し遠いところに住んでいたのだが、出稼ぎというより旅をしながら珍しいものを仕入れているので今まで儲けなんてなかったと笑って語っていた。
それがエレラの一気買いにより懐が急激に潤い、ヒャッホウと顔が言っていたので今頃はまた旅に出ているかも。
「ああいう人達は滅多にいないから、探すの大変なんだけど」
溜め息を思わず吐く。
異世界でモンスターが出るとなればあやふやで、不安定なものなど売る人は少ない。
ファンタジーもので珍しいものを売る店主などという人は、おそらくいないと思われる。
そんな人は途中で襲われたりしてしまうし、無理な話なのだ。
「手紙を書いて、それを渡すね」
彼が書くと言っていたけれどエレラの方が詳しく書くので、自分で書く方が早い。
「わかった」
コレスが首を縦に振った。




