表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/119

10ドライフラワーと魔物退治依頼

列車で降りた街に滞在することとなった二人。


仕方ないし、キリがないのでついてくることは無視して、公認する。


話しかけたい時に話しかければこっちはそれでいい。


和解とは言えないが、まあ無理解よりは理解されていた自分の状態が把握できた。


が、この男、まだまだ無口なのだ。


なおす気がないというのか、元来のそれなのかもうさっぱり。


しかし、エレラともう一人のエレラは残念ながら妻という肩書をなくしてないので、今後なにをしても関わりを持ち続けるしかない。


幸いにも愛はもう一人が請け負ってくれるというので、気が楽。


コレスはやはりぴったりついてきていた。


ここで、臨時のなにかをしようかなと思案。


なにもしてないので資金が減る一方で、あと、単純にやることがなくて困る。


それならば、得意なことを活かすべき。


人前では話さなくなる男に、肘で距離を空けるようにと無言の抗議。


「不動産、不動産」


不動産屋を探し出して、そこでお店の契約をする。


なにをしようかまだあやふやだ。


植物関係のことをしたい。


ドライフラワーでもしようかと。


ドライフラワーの利点は、新鮮なものを置かないので細やかな世話を、必要としないところ。


店員を雇わずとも一人でできるし。


寡黙を装っている男を張り付かせたまま、エレラは不動産屋で店を借りた。


どれくらい借りようかなと思っていると、半月を更新日にするのでも構わないと言われて、それにした。


お得パックと書いてあり、異世界でも、なんでもやるんだなと商魂の逞しさに納得した。


コレスは一年パックを無言で指差していたが、流石に長すぎであると首を張って半月パックを選ぶ。


どれだけこの街に長居する予定を想定しているんだろうか。


もっと違う場所に行きたいんだよね、こっちは。


旅をしたい。


飛び出したのは、そういうのをやりたいからだ。


いざ、お店を借りるとそこに寝泊まりできるようにベットも買った。


またまたコレスが、財布を手に強引に支払いをしていくので、好きにすればいいと思った。


拒否する気持ちも、言葉も時間もとてももったいないので。


不動産については、エレラの財布からだが、なんらかの方法で朝になると財布の中身が増えているから、これは多分自腹にならないだろうと指摘するのもしていない。


いつの間にか増えていることを、妖精の仕業だと思っておくことにする。


お店のために、ドライフラワーの制作に取り掛かる。


先にお店を借りたのは、ホテル代を浮かせるためだ。


ホテルよりも借りた方がずっと安いし。


先ずは花屋に行き、花を吟味。


その後、いろんな花を購入。


借りた家と店に帰り、花を魔法でいい具合に枯らす。


「なにをするんだ」


家に入ったら急に質問してくる。


「ドライフラワーをしようかと」


「どらいふらわー?なんだそれは」


「見ればいいよ。見た方が早いし」


速やかに会話を終わらせて、見せた方が早いとやってみる。


この世界は魔法有りの世界。


水分を抜き、枯れないように調節。


「花はなにも変化してない」


見た目は。


「これを雑貨屋で購入した箱と額縁に入れる」


ドライフラワーの飾れる期間は長い。


それを紙の説明欄に書き、新商品ということをアピール。


「完成か」


「完成した」


やはりなにも変わってないと首をかしげる男を置いてお店のショーケース部分に置く。


前の店のものなのか、そのままあったので見本用と売るものようで飾る。


「そうだ」


「ん?」


振り向くエレラを不思議そうに見てくる彼。


使えるものはなんでも使おう。


コレスへこれをこうしてああして、と説明してジェル制作を担当させた。


ジェルの説明はかなり、つたなかったが彼は天才なのかやり切っていた。


高ランクだから、余計になんでもありになっているんだなと羨ましくなる。


ジェルを薄いものに流し込む。


流し込む前に、本に挟んだ花をいれておいた。


それをコレスに渡す。


「これ。ここにチェーンや紐をつければ持ち運べるから宣伝用につけてて」


「おれに?プレゼント……」


いや、聞いてなかったかな。


だから宣伝用である。


「行ってくる」


「はぁ、いや、だからっ、え?行ってくる?どこへ」


言い終える前に彼は消えていた。


はや。


いやいや、どこに行ったのだろう。


まあ、いいか。


夜には帰ってくるだろうと思えば、商品を作る手を動かす。


まだまだ数が足りない。


エレラは淡々と繰り返し、区切りのついた作業を終わらせると窓を見る。


住んでいた町を出てよかった。


やはり身内が超有名な場合、他人が口出ししてくる環境ができあがってしまう。


それは、二人をバラバラにしていった原因の一つ。


何ごともほどほどにしてほしいところだ。


今回はなんの関係も築いてないので、のびのび暮らせる。


頭を緩く曲げて、ストレッチ。


ドアを開けて、外を散歩するために出る。


のどかだ。


ゆったりと歩き出し、景色を見る。


「薬草は」


やはり自然豊かなので野生の薬草が生えていた。


妻と青い薬草が手に増えていく。


緑じゃないところ、本当に違う。


飲む気をなくす色かもしれないけど、この世界だとよくある色合いなので飲む気を失う人はいない。


エレラくらいではなかろうか。


(美味しくないってわけじゃないけど、進んで飲みたいってわけじゃない)


なにもかも異世界っぽい。


詰んでいると風が吹く。


吹いた後に乱れた髪を整える。


「ギルドに行ってきた」


「なっ!」


真後ろにいたらしい。


こっわ。


気配も音もしなかった。


風と言ったが、ささやかなそよ風だ。


その程度、外ではいつでも吹いている。


「ギルドに行ってきた」


「そうなの」


ギルドで見せつけてきたと自慢。


ギルドにドライフラワーの層は居ないだろうけど。


「これで客は来そうか」


「それは難しいかも知れないけど、気長にやってくよ」


深く考えてない。


ただ、やろうかなと軽い気持ちで始めたから、宣伝の効果がなくともいいやと思っている。


「無駄なことさせたっぽくてごめんね」


「いや、おれが早とちりして話も聞かずやってしまったのが悪い」


謝れる人らしい。


まあ、前々から謝ってはいたけどね。


知ってたけど、高ランクの冒険者は変な人が多いのだろうかと気になる。


色々考えていると、彼がギルドから依頼されたと言う。


「依頼?」


「依頼だ。この街の外にある岩に住むモンスターらしい」


「そうなんだ。行ってきたら?」


「嫌だ」


「きっぱり言われても」


依頼があると前置きしておいて、嫌だという前後の会話の意味はあったのだろうか?


「一緒に行きたい。依頼にな」


「私は依頼となんの関係もないし。モンスター退治なんてみたくないし」


つまり、行く意味がどこにも感じられない。


拒否の拒否の拒否を言い連ねているが、彼は駄々をこね出す。


エレラはエレラでただただ困るのだが。


うーん、と悩む。


多分離れたがらないのは、目を離すとまたどこかへ出奔してしまうのではないか、という疑いのせいだろう。


男は手をぎゅっと握ってくる。


夫なのでそこはまぁ……許す。


仕方ないことではあるしね。


「来てくれねぇか?おれと」


「んー」


やっぱりこの人……顔がいい。


もう一人のエレラは、この顔に惚れず性格に惚れたらしい。


二人きりのときは確かに優しかったもんね。


エレラなら、性格違い過ぎて結婚なんてしない。


先ずはこの人がどういう人か、探偵とかに依頼するんだけど。


顔がいいので許してしまいそうになるけど、流石にモンスターは別だろう。


彼は手を離さず、さらにこちらの身体を腕に収める。


納めた後は、手を膝の裏に差し込みふわりと抱き上げた。


コレスがやることは瞬く間のことだったし、気付いたら空中にいた。


「なああああ!!」


高所が怖いわけではないが高くて足が固まる。


ヤバいヤバいヤバい。


あまりにも急な展開。


ビュオオ


髪がバサバサ揺れる。


揺れる髪が邪魔で邪魔で。


そして、気付いたら街の外に出ていた。


普通に連れてこられた。


一般人のか弱い女一人を、街の外に無防備に連れ出す男が実在していたらしい。


そんなの嫌だ。


エレラは元花屋の人間であり、冒険者などというものはこれっぽっちも関わったことがないのだ。


着いたらそこはモンスターの目の前だった。


こんなことはあってはいけない。


「グ?」


モンスターがこちらに気付いたと同時に、一刀両断。


「うわお」


この人はモンスターを一刀両断派なのだろう。


いつも、真っ二つにしている。


「ウッ!」


いくら強気のエレラであれ、モンスターという化け物については別。


怖いものは怖い。


大型の生物も苦手なので、こんなに大きなものなど無理なものは無理。


それだけではなく、切れた姿もひどい。


吐いてしまいそう。


いや、もう吐く。



耐えた。



耐えたけど、責任を取ってもらうために相手を殴りにいく。


「殴るから止まって」


振りかぶって相手を殴った。


ごぅ、となって、手首に響いたのはこちらだった。


痛いっ。


そして、これっぽっちもダメージを受けてない。


腹立つ腹立つ。


凄い腹立つ。


因みに殴ると言ったら直立不動になったので、だんだん言われるがままの方がよいということに気づいてる。


最近はこんなふうになっているので、エレラも殴るために殴った。


嫌という相手を、連れていくやつがいるのが悪い。


一般人を連れていくのは、いけないことなのだ。


彼は殴られてもピンピンしていて、殴った手を心配してくる始末。


心配するな。


心配されると発散されたむかつきが戻ってくるから。


コレスは手を掴んで回復魔法をかける。


「技術力やばい。回復魔法とか凄すぎる」


魔法を使える人は普通にいるが、あんな手軽に回復を行えるものなどごく僅か。


手に手を出してボコボコにしようとしても、ダメとはいかに。


相手が悪いのに、罰を与えられないってなんだ。


これからもモンスターのいるところに連れて行かれるかもしれないなんて、最悪以外のなにものでもない。


そもそも、ギルドの依頼などやらねばよかったのだ。


別に仕事中毒というわけじゃないし。


お金がないわけじゃない。


自分と出会う前から高ランカーなので、貯蓄はあると思う。


見たことない。


興味なかったから。


あと、エレラがいい子だったから。


なので、仕事を受けねば飢えるというわけじゃない。


バトルジャンキーかこいつ……?


「街に戻ってください。ゆっくり、時間をかけて」


時間をかけてを強く誇張する。


「歩くのか」


「あ!る!く!の!」


微妙なお気持ち表明が顔に出ていたので、感情を押し込めた声を出す。


押し込めた中でも怒りを感じ取ったのか、男は頷く。


わかった、と理解したようで二人して長い道のりを進む。

花を作りたいし栞も作りたい。

歩きながらもできなくはないが、座った方がなんとなくやり易い。

素直に歩く彼はこちらをジーッと見る。


「手を繋ぎたい」


「片方に代わりたいなら後でね。嫌は作業するから」


嗜めた。

だが、彼にとってはどちらでもいいのかこちらの手を求めてきた。

今から栞にしたりしたかったんだけど。

顔を顰めた。


「だめなのか。キスしていいか?」


「手よりさらに上の、キスを望むなんて不遜じゃない?」


「今日はずっと店の作業をしていて、こっちはずっと手持ち無沙汰だったからな」


彼は笑って、顔を寄せてきた。


手持ち無沙汰というが、彼がこちらの作業を中断させたのだが?


「誰が私の仕事をモンスター退治を見せられるものに変えたか理解してて、したいって言ってるの?」


「?……あぁ」


やはりこいつはエレラを連れてきた申し訳なさを今も感じてない。


張り手しても許されるかもそれない。


キスをしてしまおう、という気迫を感じて走った。


「いいことっていうのは、いいことをした人がもらえるんだ!嫌がることをした相手に、ほしいものが与えられるわけないでしょっ」


コレスは簡単にエレラに追いつけたが、今は追いつかず並走してはならないと、本能が発動した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ