6.天女の羽衣
「あ。起きた?栞太」
「あ。俺」
あれは夢だったのか。
眠気眼の栞太は疑問に思った。
今、栞太は八雲に背負われていた。
ぴょんぴょんぴょんぴょん。
上に下に斜め下に斜め上に横に、距離が長く離れていたり、短く離れていたりする岩から岩へと軽快に飛び移っている八雲に。
決して、不思議と呼吸ができて、ほど良く温かいお湯の中に全身浸されては寝かされているわけではないのだ。
(どこからが。夢、だったのか?)
『ごめーん足滑らせちゃった近くに岩がないし、ちょっと地上に落ちるね』
仙界から地上までどれくらい距離が離れているのか。
灰色がかった白の巨大な雲群があまねく地上の景色を遮っているのでわからないが、きっと途轍もなく離れているに違いない。
それなのに、あんなにとっても軽い口調で言えるものだろうか。
否。言えるわけがない。
つまり、あの八雲の科白からすでに夢だったのだ。
(そうだ。よな。うん。夢、夢だよ。うん。あの恐ろしい笑い声も夢。異世界に連れてこられて疲れが出たんだな。うん。あーでも眠って、すっきりした。酔いも消え去ったし。ん?)
何だこれ?
ひらりひらり、揺れ動いている、天女の羽衣のような物が視界に入っている。
栞太が顔を左右に動かせば、どうやら両肩にかけられているのだとわかった。
「え?何だ?これ?」
(2024.3.5)