5.研究者
声が。
「この少年は普通の人間なのだ。我々のように仙人骨があるわけでも、仙筋力があるわけでも、仙力があって宝貝が使えるわけでもない。キミの速度と急激に変化する気圧に身体がついていけるわけがないだろう。まったく。我は今、新作の宝貝を作るのに忙しいと言っていただろう。余計な仕事を増やさないでくれ」
「ごめ~ん、弩九。でもお願い。この少年を。栞太の身体を元通りにしてよ。俺、大仙人様に頼まれたんだ。栞太の世話。弩九ならちょちょいのちょいで治せるだろ。なんたって、仙界一の研究者だしっ」
「研究者は医者ではないのだが」
「えー。でもよく、震霆の身体を治してるじゃん」
「あいつは。ああもういい。キミの能天気な話し方を聞いていると頭が痛くなる。わかったわかった。ちょちょいのちょいで治すからさっさと出て行ってくれ」
「はーい。よろしくね。弩九」
二つの声が聞こえる。
「ふう。さて。まあ。身体を治す事など造作もない。けれど。ただ、治すのでは、面白くないな。ここで長く暮らす事になるのだし。くく、く。仙界の環境に耐えられるように」
恐ろしい笑い声が聞こえる。
(2024.3.4)