18.手紙
【この寝転がっている栞太少年に色々尋ねてみたところ、仙界で過ごす意志は強く感じたので、一先ずあなたに預けます。優しく鍛えてやってください。姜芳】
「って。あっしに厄介事を押し付けないでくれよな」
寝転がっている栞太の傍らに置かれていた手紙を読んだ燧乎は、胡坐をかいた状態で栞太を矯めつ眇めつして見つめた。
「本当に只の人間じゃねえか。まったく。大仙人様も厄介な者を釣ったものだ」
一緒に修行をする事に異論はない。
仙人でも、道士でも、霊獣でも、妖怪でもなく、只の人間であったとしても、だ。
やる気があるのならば、いつだって迎え入れる。
「まったく」
姜芳が何故、栞太を己に押し付けたのか。
この性格に加えて、この重力が少しかかる己の岩で修行をすれば、通常よりも早く身体は鍛えられるからだろう。
「まったく」
霊獣の紅鶴からの報告によれば、凍夜は栞太を異世界に帰したらしい。
それが正解だ。
只の人間にとって、この仙界は過ごしやすい世界とは決して言えないのだから。
さっさと忘れて、元の世界でまた日常を過ごせばよかったものを。
しかし、何がどうしてどうやって、この仙界に舞い戻って来たのか。
大仙人様の執念が栞太を連れ戻したのか。
それとも。
「まあ。あっしは、やる気さえあれば、迎え入れてやるよ」
燧乎は栞太の鼻先の近くで指を弾いて、空気を震わせたのであった。
(2024.3.14)