166.あまあま
「うわっちゃあ」
「夢じゃないよ」
「あ。夢じゃないんですかよかっ。た。の。か、な」
「夢だったらだめだった?」
「だめじゃないです。ただ、夢で会う方がより会いたいって気持ちが強いような気がして、気恥ずかしい、と言いますか。会わなくてもいいって、本気で思っていたのに。矛盾してる、と言いますか。あ。でも、会いたいって思っているので、矛盾はしてない。何はともあれ、会えて嬉しいです!」
「嬉しいんだ?」
「はい!」
「じゃあ、ちょくちょく来ようかな。君は僕に会いに仙界には来ないでしょ?」
「はい!」
「燧乎も姜芳も荊も八雲も石家守も大仙人様も会いたがってるけど、会いに来ないんでしょ」
「………嬉しいです。すごく。そうですよね。挨拶もなしに帰っちゃいましたもんね。すごくお世話になったのに」
「名残惜しんでる。僕と違って」
「凍夜殿は相棒ですから!」
「うん。僕も相棒だから会わなくてもいいって思ったんだけど。でも、相棒だからちょくちょく来るよ。そうしないと。ううん。そうしなくても、君はいいんだろうけど。僕が嫌だから、会いに来るよ」
「………凍夜殿は、すごく、俺に甘いですね」
「そうなんだよね。びっくりだよ」
「へへっ。俺にだけじゃないですけど。みんなに甘いですよ」
「僕がみんなにじゃなくて、みんなが僕に甘いんだよ」
「じゃあ、仙界の皆さんは全員あまあまですね」
「だから、仙界から逃げた?君が溶かされそうで怖かった?」
「………はい。そうですね。多分、溶かされた方がきっと、もっと、自由で、幸福になれると、感じられると思うんですけど………俺。すごく。莫迦。ですよね。でも。俺は、俺を、捨てたくない。だから、怖かったです。仙界は。すごく。嬉しくて、怖かった」
「もしかして。怖くなくなったら。仙界に来てくれるのかな?」
「え?あ………その。考えは、まったく。思いつきません。でした」
「そっか」
「はい………そう。ですね。怖くなくなったら」
「うん。怖くなくなったら。いつでもいいよ。みんな、君よりうんと長生きできるんだから。それに、怖いままで来れなくてもいいし。僕が君に会いに行くから」
「………ありが、とう。ござい、ます」
「うん。僕も。ありがとうね。来ていいって言ってくれて。僕も本当は怖いでしょ?」
「相棒ですから!」
「うん。そうだね。相棒だからね」
「はい!」
「君の世界をちょっと見てみたいんだけど、案内を頼んでいいかな?」
「はい!あ。一人だけ紹介したい友人が居るんですけど、いいですか?」
「え。やだ」
「わかりました!次の機会がある事を期待します!」
「うん」
(2024.5.21)