165.最癒
夢を見た。
「この浮気者!俺だけじゃないなんて!他にもおまえを癒す存在はいっぱいいるなんて!話が違う!」
「あーうん。なんか。ごめんね」
栞太が駄々を捏ねるわからずやになって、凍夜に詰め寄る夢。
こんなに強い衝動に駆られるなんて思いもしなかったが、凍夜はけれど、常と変わらずに飄々としていて、何故この暑く篤い想いが通じないのかと、あろう事か拗ね始めるのだ。
うわっちゃあ何やってんだ。
赤面しては慌てふためく己。
はあああこんな一面もあったのか。
冷涼な風が吹き抜けるような新鮮さを感じては、感慨深くなる己。
両極に位置する二人の己を冷静に見つめる己。
四者四様の己が内在する不思議さに、けれど、夢だからと俯瞰して見つめる。
(いや。夢じゃなくて、もしかしたら)
もしかしたら、あのまま仙界に居続ける事を選択していれば、あったかもしれない未来。
取り繕う事もない、誤魔化すように包み込む事もない剥き出しの感情を、他者にぶつける。
(ただの、他者じゃない。特別な相手だから。相棒だから、か)
本当は、両親や友人にもぶつければいいのだ。
ぶつけたところで己の気持ちなど伝わらないかもしれなくても、ぶつければ、もしかしたら何かが変わるかもしれない。なんて。
(無理だな。今更。困らせるだけだ。し。俺は、応援したい気持ちも確かにあるんだ。仕事に集中してもらいたい。この気持ちも確かにあるんだ。だから)
だからこの世界では、このままでいい。
強い衝動なんて、感じなくていい。
淡々と冷静に己を鎮めて生きていく。
この生き方に哀憫の情を抱く事はもう、ない。
もう、愛されたいなんて、嘆く事はない。
(俺には、最強で最高で、最癒の相棒が居るからな)
(2024.5.20)