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164.寂しくないし




 三千歳草みちとせぐさの仙界に浮かぶ暗雲にて。

 そこで寝転んでいた凍夜いてやの傍らに、九尾の妖狐が音もなく舞い降りては、しゃがみ込んで顎に両の手を添え、凍夜いてやの顔を覗き込むように見下ろした。


「異世界放浪の旅に行ってたんじゃないの?」

「一時帰宅じゃ」

「なら、流柳りゅうりゅうのところに行ったら?君の帰りを首を長く、はしてないけど。楽しみに待ってはいるんだから」

「一時帰宅だからのう。流柳りゅうりゅうの元へはすぐに出発する異世界自由気儘の旅から帰って来たら行くつもりじゃ」

「はい。じゃあ行ってらっしゃい」

「ほんにつれないのう。栞太かんたの言葉を届けに来たというに」

「どうせ僕への言葉なんてないでしょ」


 パチパチパチヒューヒュー流石は相棒じゃ。

 九尾の妖狐は元気よく拍手喝采を凍夜いてやへと贈った。


「そちへの言伝はあるかと尋ねたのじゃが、ないと壮快に答えおった。流石は、妾と大仙人が選んだだけはある。うむ」

「自画自賛」

「はは。耳にたこができるほど他者から崇め奉られてはおるがのう。偶には己で己を褒め称えねばのう」

「偶には、ねえ」

「うむ。偶には、じゃ」

「はい。用事は済んだでしょ。行ってらっしゃい」

「寂しくないのかのう?」

「寂しくないし」

「はは。妾ではない。栞太かんたに会えず、寂しくないのかと尋ねておる」

「寂しくないし」

「………ふむ」

「なに?」

「いやいや、なになに」

「………行ってらっしゃい」


 にやにやニヤニヤ。

 含みのある笑顔を追究したらきっと嫌で面倒な思いをする。

 確信した凍夜いてやは、三度目の行ってらっしゃいを九尾の妖狐を言った。

 どうせなんやかんや居座るかと思われた九尾の妖狐は、あっさりと腰を上げては行ってくると両腕を振って姿を消したのであった。

 見たいものは見たと、とても満足した表情と態度であった。


「………ああもう」


 凍夜いてやはさっさと眠ってしまおうと目を閉じたのであった。











(2024.5.15)




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