162.お好み焼き
栞太が住む世界にて。
隆志と途中で別れて家に到着した栞太は、手洗いうがいを済ませて自室で学ランから私服へと着替え、今日の夕飯は何を作ろうかと冷蔵庫の中を見て、玄関先に置いてある根野菜箱を見ては何もない事を確認、ではお好み焼きでもするかと考え、朝に干していた洗濯物を取り入れては畳みそれぞれ箪笥に入れて、宿題を先に終わらせようと自室の扉を開けた時であった。
紺と抹茶色の二色、四枚のパネルタイプの置き畳の上に、ちょこんと凍夜が足を崩して座っていたのだ。
「何をしているんですか?九尾の妖狐殿」
ぱたん。
栞太は小さな音を立てながら扉を閉めてのち、凍夜の前で正座になった。
「何じゃ。つまらんのう。あっさりと見破りおって」
凍夜、ではなく、凍夜に化けていた九尾の妖狐は変化を解き己の姿に戻った。恨めしそうな言葉とは裏腹に、笑顔だった。
「そりゃあ、相棒ですから」
ふんす。
鼻の穴を大きくしては大きな鼻息を出した栞太に、九尾の妖狐はうむまことそれでこそ相棒じゃと大きく頷いた。
「お茶、えっと。熱い緑茶、冷たい爽健美茶、冷たい、もしくは熱いインスタント珈琲。どれか飲みますか?冷たい野菜ジュースもありますよ。あ、インスタント紅茶も。常温のオレンジジュースもあります」
「彩りみどりだのう。ふむ。では。オレンジジュースをもらおう。常温のままでよい」
「わかりました。少々お待ちください」
「うむ。ゆっくりでいいぞ」
「はい」
ひらひら。
九尾の妖狐は手を振って栞太を見送ったのであった。
(2024.5.12)