159.鰹のたたき
三千歳草の人間界にて。
ゆらりゆらゆら。
ゆらりゆら。
凪いでいる海上にて、小舟に乗って釣りをしていた琅青は、遠方で元気よく泳いでいる荊を目を細めて見つめては、己も釣りをするより素潜りした方が早く獲れるだろうかと考えた。
今が旬の魚であり、今己が欲している鰹を。
さばいた鰹の表面を炙って鰹のたたきを作り、切った鰹のたたきの上に千切ったレタス、薄切りした玉ねぎ、小口切りした小葱を散らして、ポン酢をかけて。
幻の筍である淡雪筍はもう、それはもう崇め奉りながら美味しく食べてしまってないが、普通の筍はまだあるので、筍の混ぜご飯を作りこの鰹のたたきと一緒に食べれば。
「最高である」
曇り空を見上げては、よだれを垂らしそうになった琅青は、上下がわかれている銀杏色の作務衣を身に着けて、慈竹という青々しい竹筒を腰からぶら下げたまま、海の中に飛び込んだ。
瞬間、一瞬にして距離を縮めた荊の一緒に遊ぼう攻撃を受けては、ではどちらが多く鰹を獲れるか競争しようと言った琅青の申し出を荊が受け、鰹を獲りまくっては漁師に自分たちの食い扶持がなくなるじゃないかと叱られてはお裾分けをして、一緒に鰹のたたきと筍の混ぜご飯を一緒に作って食べるまで、あと、三十分である。
(2024.5.9)