156.子連れ同伴
三千歳草の人間界にて。
「なあ」
「何?來凱」
來凱は八雲を見た。
このところ頻繁に人間界に降りて来ては、己に付き纏っているのだ。
まだ修行中の道士であり、己に付き纏うのは師匠である荊に修行の一環だと言われたかららしいのだが。
「俺っちはよ、一匹狼なわけよ。手を組む相手は大抵一回こっきりって決めてんだよ。相棒なんてもんは要らねえ」
「ふむふむ」
「だからよ。その、俺の相棒ですよ、みたいな顔で付き纏うのは止めろ」
「え?俺、來凱の相棒じゃないの?」
「相棒じゃねえし」
「あ、そっか。來凱は師匠の相棒だから、俺は來凱の弟子になるんだ。すみません!相棒だなんて、俺には分不相応でした!來凱師匠」
「………師匠?」
いや、荊も相棒じゃねえし。相棒は要らねえって言ってんだろ。
そう否定しようとした來凱はしかし、実行できなかった。
弟子という単語に、大きく心が揺り動かされたのだ。
「弟子」
「はい!來凱師匠!」
「………ったく。仕方ねえなあ。いいか。俺っちの仕事の邪魔だけはするなよ」
來凱は頭を大きく動かしては鶏の鶏冠のような髪を振り上げてのち、顎をこすりながら言った。
「はい!來凱師匠!」
「けひっ。声がでけえ。小さくしろ」
「はい、來凱師匠」
「………子連れ同伴の捕吏、か」
來凱と八雲と一緒に居た心槍は、ぽつり、呟いたのであった。
(2024.5.7)