155.色気
栞太が住む世界にて。
高校の帰り道の途中の事である。
栞太と、とある有名漫画の二次創作にハマっている腐男子の友人、糸賀隆志は、わびさびのある公園のブランコに並んで座っていた。
隆志は栞太が出て来た夢を夢と思わず、現実にあったものとし認識しており、栞太は栞太で隆志の夢の内容を現実のものではないと否定はせずに、隆志の話に耳を傾けては、落ち着いて話していた。
「………じぃ~~~」
「何だよ?」
「また硬くて厚い殻に閉じこもってる。夢の中のあなたはどこに行ったの!?」
「夢の中でしか会えません」
「現実でも会いたいわ」
「どれだけ切望されようとも夢の中でしか会えません」
「え~~~」
「現実の俺は嫌か?」
「嫌じゃない。けどさあ。まあ、そうだよな。生物には、色々な顔があるって言うもんな。悪かったな。夢の中のおまえを覗き見たりして」
「そうだな。あんまり見られたくはないけど。隆志にならいいや」
「えっ?」
「そろそろ帰るか」
「栞太」
隆志はブランコから立ち上がって背を向ける栞太を呼び止めた。
何だ。
栞太は振り返って、ブランコに座ったままの隆志を見た。
「本当にずっと仙界に居なくてよかったのか?」
「ああ。もう、大事なものはここにあるから。なんてな」
自分の掌を見つめて微笑を浮かべた栞太は、再度帰ろうと言って隆志に背を向けて歩き出した。
隆志は赤面しては、すげーなと呟いた。
「仙界と相棒パワーすげー」
乾燥していた栞太の硬くて厚い殻に、ほんの僅かにしっとりとした色気が加わったような気がした。
(2024.5.6)