154.ゆめ
夢を見たんだ。
とある有名漫画の二次創作にハマっている腐男子の友人が、漫画の表紙をじっと見つめながら言った。
夢を見たんだよ。
外国の高校に短期留学に行ってるはずのおまえがさ、多種多様な色と形の岩と雲が、見渡す限りに多数存在している空の中でさ、アイドルグループかってツッコみたくなる見目麗しく個性的な仙人が住んでる仙界にさ、釣り上げられてさ。
太公望に釣り上げられたのかよって思ったら、超デコが長い大仙人でさ。
その大仙人が、いきなりおまえに言うんだよ。
そなたは仙界の五本指に入る仙人、凍夜を癒して、ポメラニアンから仙人に戻すという超重要な任務を課せられたのっじゃ!!!
俺の心臓にさあ。矢が突き刺さったわけよ。すんげえふっとくて長い矢が三本。
一本目の矢に当たった俺の心臓は、げへげへ美味しい展開だぜって、ドキドキしててさ。
二本目の矢に当たった俺の心臓は、わくわく大冒険が待ってる展開だぜって、ドキドキしててさ。
三本目の矢に当たった俺の心臓は、友人のおまえが心配になる展開だぜって、ドキドキしてさ。
もうさあ、俺。ドキドキドキドキしっぱなしだったわけ。
心臓持つかなあ、俺、心臓一時停止になりはしないかって、ちょっと本気で心配したもんなあ。
そんださあ、おまえさあ、こっちの世界に居るおまえと違っててさあ、一皮むけたって言うか。
いや、違うか。硬くて厚い殻にちょっとだけ割れ目を入れてさ、目をきょろきょろきょろきょろ、あっちらこっちらに向けてんだよ。
この世界に興味津々ですってさあ。
硬くて厚い殻から飛び出せるかもしれないですって希望を見つけちまってさあ。
なんかさあ、俺さあ、そんなさあ、怖いって思いながらもさあ、嬉しそうなおまえを見たらさあ。
なんかさあ。泣けてきちまって。
ああ、おまえはもう、こっちに戻ってこないんだって。
俺はもうきっと、夢の中でしかおまえに会えないんだって。
そう思ったら、ますます泣けてきちまって。
嬉しくて、悲しくて、やっぱり嬉しくて。
達者で暮らせよって。
俺さあ、大声で叫んだもん。
そっちで漸く相棒になれた凍夜殿と達者で暮らせよって。
今生の別れだよ、別れ、マジで。
なのに。
「帰ってきてんじゃねえよ!」
「帰って来るし。ただいま」
「~~~おかえりなさいっ!!!」
(2024.5.6)