15.過呼吸
過呼吸。
精神的、または肉体的疲労により発症。
脳の中にある呼吸中枢が過剰に刺激される為、呼吸が速く・短くなる。息を「ハーハー」と吐く過剰な換気を起こすと、血液中の二酸化炭素が呼気中に多く出されて、血液がアルカリ性に傾き、次のような症状が現れる。
呼吸器の症状。
窒息しそうな息苦しさ。
呼吸が速くなったり荒くなったりする。
神経の症状。
手足の先の痺れ感。
口の周りの痺れ感。
眩暈、嘔気、冷汗。
循環器の症状。
動悸、頻脈。
(ヤ。ヤバイ。疲労じゃなくて。虎の可愛らしさ愛らしさで命の危機が)
呼吸器、神経、循環器の過呼吸の症状が発症してしまった栞太は、流石に焦った。身体も動かせないのだ。焦るに決まっている。
宝貝、仙羽衣も、流石に身体の不調からは栞太を守る事ができなかったようだ。
しかも、自発的不調なのだ。
自分が悪い。虎の可愛らしさ愛らしさに耐えられなかった自分が悪いのだ。
栞太は己を責めつつ、この危機的状況を打破する為に脳漿を絞った。
(ど。どどどうすれば。紙袋を頭に被せて呼吸すれば。い、いや。窒息するかもしれないからこの方法は止めた方がいいんだっけ?どうだったっけ?)
まずは。落ち着け。落ち着くのだ。呼吸を。呼吸を整えなけれ。
(げぼっ)
呼吸を整えなければ。
栞太がそう思った時、心配してくれたのだろう。
ぐるぐるぐるぐるぐる。
栞太の周囲を小さな歩幅で動いていた虎が立ち止まったかと思えば、栞太の頬に、とってもやあらかい肉球を、とっっってもやわらかい肉球を(大事な事なので二度言いました)、ふわっと、ふわぁあっと、当ててくれたのだ。
効果は覿面だ。
虎の可愛らしさ愛らしさ優しさに免疫が一切なかった栞太の呼吸は、止まってしまったのであった。
「荊。まったく。遊んでばかりでは困るんですよ。わたくしたちは仙人なのですよ。己の修行に励みつつ、道士の指導に当たらなければならない………ん?」
七三分けの漆黒の髪、黒丸眼鏡、黒の中国服長砲と、黒に身を包んだ男性仙人、姜芳は、遊んでばかりの虎、荊を迎えに来たのだが、荊の傍に呼吸の止まった栞太を見つけて、おやまあと言いつつ、黒丸眼鏡の山に中指を当てて黒丸眼鏡を少し持ち上げたのであった。
(2024.3.12)