151.おびえ
凍夜の秘密の場所にて。
覚悟が足りなかった。というべきか。
やる気だけではだめだった。というべきか。
(今更。怖気づいた。と、か)
水面に横にして浮かせていた身体を縦にしては、温泉に少しだけ浸かるように胡坐をかいてのち、栞太の上半身は温泉に浸からないように、凍夜にお姫様抱っこされている栞太は、凍夜の口を覆っていた両の手を動かす事ができなかった。
『君が僕を守ってあげる』
『君を僕の真の相棒に、うん』
切望していた言葉だった。
この仙界に来て以降ずっと。
この仙界に来る以前からずっと。
求めて、諦めて、心の中でずっとひっそり、息づいていた望みだった。
その切望が、叶えられるというのに。
想いが、受け入れられるというのに。
(今更怖気づくなんて、)
釣り合わない。から。だろう。
当然だ。
経験値が最高の大人と、経験値が最低の赤子のような関係である。
それをどうして、対等の相棒になれるのだろうか。
否。なれるわけがない。
(今更………だけど)
栞太は怯えながらも、凍夜の目から目を離さなかった。
眠気眼と死んだ魚の目の中間に位置する目から、ほんの僅かでも離さず見つめ続けては、不意に襲われた強い衝動を殺さずに、その勢いのまま言葉を紡いだ。
「俺を守ってください!俺も凍夜殿を守ります!」
怯えは、まだあった。
どころか、口に出した瞬間、増大してしまった。が。
栞太は言葉を、想いを翻そうとはしなかった。
そんな考えは微塵も抱かなかったのである。
(2024.5.3)