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150.無言
凍夜の秘密の場所にて。
水面に横にして浮かせていた身体を縦にしては、温泉に少しだけ浸かるように胡坐をかいてのち、温泉に沈んでいく栞太を引き上げては己に引き寄せて、栞太の上半身は温泉に浸からないようにお姫様抱っこしている栞太に聞こえぬよう、しめやかに息を吐いた凍夜は、眠気眼と死んだ魚の目の中間に位置する目というやる気のなさそうなその表情のまま、言った。
僕が君を守ってあげる。
「凍夜殿」
「君を僕の真の相棒に、うん」
凍夜が少しだけ間を置いてのち、言葉を紡ごうとした時だった。
栞太が凍夜の口を、そっと両の手で覆ったのである。
栞太は何も言わなかった。
凍夜もまた、栞太の両の手を退かそうとはしなかった。
ただ、じっと、互いの目を見つめ続けていたのであった。
(2024.5.2)