149.あ~あ
凍夜の秘密の場所にて。
愛情がほしい。
そう、言葉を紡いだ栞太は、体温がやおら上昇して全身が赤らんでしまっては、にへらと笑みを浮かべて、誤魔化そうと、訂正しようとの思考が頭を過った、が。
凍夜の表情があまりにも変わらなかったので。
眠気眼と死んだ魚の目の中間に位置する目というやる気のなさそうなその表情をまっすぐに向けられていると、栞太の心も全身も魂も優しく包み込んでいるように感じられたので。
栞太は誤魔化す事も訂正する事もせずに、にへらとだらしない笑みも引っ込めて、ほんの少し、泣きそうな表情を凍夜に向けた。
自らほしがるもんじゃないよ、愛情だなんて、面倒なだけ。
自分も周囲のみんなも振り回されてばかりで、本当に疲れる。
自分も相手も幸せにする愛情だなんて、まやかし。
真剣にほしがるものじゃない。
(今、君がほしい愛情がもらえなかったとしても、絶望する事はない。どうせ、今後ももらえる事はないんだから。君の愛情を真剣に求めるのは止めた方がいい)
凍夜は冷酷無比にそう思いながらも、栞太にその言葉を告げる事はしなかった。
(あ~あ。もう。やっぱり。二人きりになるもんじゃないよね。いや。その前に。何で問いかけちゃったのかなあ。僕。あ~あ)
(2024.5.1)